2011年05月30日

会計事務所の差別化戦略: よろず経営相談

前回は、会計事務所の差別化戦略として、記帳代行に力を入れるというオプションについてお話ししましたが、今回は、もう一つの方向性であるよろず経営相談について。

会計事務所は全国に30,000以上も存在しますから、その考え方や戦略も様々です。ただ、多くの会計事務所は、競争が激しくなる中で、より付加価値の高い業務にシフトしようとしています。前回お話ししたように、記帳代行というのは労働集約型の作業であり、必ずしも付加価値が高い作業ではありません。このため、会計事務所にとって付加価値の低い記帳は顧問先に任せ、より付加価値の高い業務に専念しようという方向性が生まれます。申告業務や税務調査立会は税理士ならではの付加価値ですが、さらに付加価値の高い業務として多くの会計事務所が力を入れているのが、よろず経営相談(地に足がついた経営コンサルティング)です。

経営コンサルティングと言えば、そういえば私もかつては一応(?)経営コンサルタントでしたが、そんな私でも会計事務所には結構相談しました。例えば、どうやって資金を手当てしておくかも含め、退職金制度の在り方について相談にのってもらいましたし、これに関連して、生命保険の掛け方などもアドバイスしてもらいました。あるいは、株主総会をいつ開催しなければならないか、どういった書面が必要か、まで。なんでもかんでも丸投げではありませんが、自分なりに調べてわからないことは、遠慮なく聞くようにしていました。事業と言えば、「ヒト・モノ・カネ」。このうちのヒトだけをとっても、自分の給料から、従業員を雇った場合の手続き、従業員を守るための保険のあり方まで、考えるべきことは山ほどあります。事業をする上で、次から次へと生まれる様々な疑問や悩みに対し、的確なアドバイスを受けることができるのが、このよろず経営相談です。私も、本当に助けてもらいました。

難点は記帳代行よりもお客さまへの訴求が難しいことでしょうか。このよろず経営相談の有難味は実際に受けてみないとわかりにくいですし、また、当然どの会計事務所も多かれ少なかれ「経営相談、経営指導、経営コンサルティング」を看板として掲げていますので、会計事務所からその付加価値を客観的に伝えることも、顧問先としてもそれを正しく評価することも難しいというのが大きなハードルかと思います。

ただ、ある程度この路線で顧問先が増えてくると、口コミで顧問先が顧問先を呼ぶ状態になります。これは会計事務所としては理想の状態ですね。
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2011年05月27日

会計事務所の差別化戦略: 記帳代行

間が一回あいてしまいましたが、前回は、会計事務所の差別化戦略についてお話ししました。会計事務所の4つの業務のうち、申告業務と税務調査立会は税理士独占業務でもあり、コア業務。一方で、それだけでは差別化できないので、残りの二つの業務である記帳代行もしくはよろず経営相談が差別化の鍵になるということでした。今日は、記帳代行に力を入れるというオプションについて。

記帳代行は、明確に「代行」と入るだけに、本来は企業(会計事務所からするとお客さま、ここでは顧問先と言う表現をします)が行うべき記帳業務を代行するということになります。顧問先からすると、お金を払って、一定の手間を肩代わりしてもらうということですね。この記帳代行については、一定のニーズがあるのは確かですが、会計事務所にとって積極的にやりたい業務かというと、実は微妙なところです。

なぜならば、会計事務所にとって、記帳代行というのは労働集約型の作業であり、必ずしも付加価値が高い作業ではないからです。確かに、会計事務所は記帳を請け負うことによって、多少は高い顧問料を得やすくなります。しかし、その業務を行うためには、それなりの労力が必要。要は、労力がかかる割にあまり儲からない、というわけです。

その一方で、記帳代行は会計事務所にとって戦略的な意味を持つのも事実です。まずは、顧問先を獲得するハードルを下げることができます。一般的に顧問先は会計についてあまり詳しくない中で、「お客さま自身がちゃんと理解しないとダメです。だからまずは自分で帳簿を付けましょう」と言うよりも、「帳簿付けから全部面倒見ます。お客さまは事業に専念して下さい」というのは非常にわかりやすいメッセージとなります。

また、そのような形で丸受けをすることによって、(意識してそれを狙っているかどうかは別として)会計をブラックボックス化しやすい、それによって顧問先を囲い込みやすいのです。これは逆のパターンを考えるとわかりやすいかと思います。記帳代行を受けない場合は、原則として顧問先が弥生会計のような会計ソフトに自分で入力します(もちろん入力する際のアドバイスはあります)。ここで顧問先が、ある会計事務所のサービスに納得できない場合は、弥生会計のデータを持って、別の会計事務所を探せば済みます。一方で、記帳代行をお願いしている場合は、こうはいきません。良くも悪くも会計業務を握られてしまっているからです。

このように会計事務所にとっても、顧問先にとってもメリットもデメリットも混在する中で、記帳代行に力を入れようとする会計事務所にとっては、業務の仕組み化がキモになります。一部の大型会計事務所では、オフショア(日本国外)の記帳代行センターを設置するという動きもあります。特に日本語を読むことのできる人の多い中国。労力がかかることは避けられないが、せめてそれにかかるコストを下げようというわけですね。特に大型事務所では、現地にスタッフを派遣し、業務の質向上を図っているようです。
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2011年05月23日

会計事務所の差別化戦略

前回は、会計事務所の仕事を大きく4つ(記帳代行・申告業務・税務調査立会・よろず経営相談)に分類しました。では、この4つの中でどこに重きを置いていくか。まず、申告業務と税務調査立会については、どの会計事務所にとってもコアと言って良いと思います。何と言っても税理士が独占を認められている業務ですから。例えば、申告に関しては、税金を納める人(会社)自身が申告書を作成し、申告することは当然okですが、逆に言えば、その人(会社)自身「以外」は税理士でないと認められないということです。

これに対し、残りの二つの記帳代行とよろず経営相談は、税理士でなくてもできる業務(税理士独占業務ではない)です。このために、世の中には記帳代行を専門にしている会社というものもありますし、よろず経営相談に至っては、とりあえず経営コンサルタントと名乗れば誰でもできてしまいます(お客さまがつくかどうかは別として)。

ただ、ではこのコアの二つ(申告業務と税務調査立会)だけでよいかというと... そうではありません。会計事務所の数が増える(税理士には定年がない一方で、新たに資格を得る方が毎年生まれます)一方で、その顧客となる事業の数は減っていますから、会計事務所業界も競争が激しくなってきています。そういった中で、このコア二つだけでは十分な差別化ができないからです。

例外としては、税務署OBの税理士の方が税務調査立会で力を発揮しやすいという話(噂?)もありますが... また、申告業務については、少なくともサラリーマンの確定申告であれば、国税庁のウェブサイトでほぼ完結でき、難易度のやや高い事業所得についても、やよいの青色申告のような会計ソフトを利用すれば自分でできるようになってきていますから、個人の申告業務が今後会計事務所の業務としてドンドン増えることは期待できません。

もちろん、個人の申告業務がすべてなくなることはありません。現実は、手間を省きたいという方やより高付加価値なアドバイスを求める方が会計事務所にお願いすることは変わらないでしょう。ただし、これは付加価値でいえば、前者は記帳代行、後者はよろず経営相談と言えます。

ではどこで差別化するか、でその会計事務所の戦略であり、特徴が顕著に出るようになります。大きな流れとしては、記帳代行で差別化するという考え方と、よろず経営相談で差別化するという二つの流れがあります(もちろんこれは一般化ですので、両方の組み合わせもあり得ますが)。

次回からこの二つの流れを順に解説してみたいと思います。早く結論を知りたいという方は、拙著「会計ソフトだけではダメ! 本当の会計の話」を是非どうぞ。

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2011年05月20日

会計事務所の仕事

中小企業にとって、最も頼れるのが税理士であり会計事務所。その会計事務所の仕事って何でしょう。会計事務所というだけにやっぱり会計の仕事? それはそうですが、あまりに漠然としていますよね。会計事務所の仕事を分類すると、実は大きく4つに分けることができます。

1) 記帳代行
2) 申告業務
3) 税務調査立会
4) よろず経営相談

少々補足すると、1)の記帳代行とは、日常に生ずる取引記録の整理、及びその入力などです。伝票などを元にいわゆる仕訳を起こす作業ですね。「代行」ですので、本来は企業(顧問先)が行う業務を代行するという位置付けになります。2)の申告業務はわかりやすいですね。所得税や法人税、消費税などの申告を行う業務です。3)の税務調査立会は、法人の場合3~5年に一度ぐらいのペースであると言われている税務調査に立ち会い、調査が顧問先にとって不利にならないように支援を行う業務です。

4)は格好良く言えば、経営コンサルティング業務ということになります。ただ、会計事務所によるコンサルティングは、いわゆる経営コンサルティングファームによるものと比較して、より地に足がついており、会計や税務だけではなく人事系の手続、株主総会の運営、保険の活用、資金調達や事業継承など極めて多岐にわたります。このため、私の感覚的には「よろず経営相談」という方がピンと来るような気がします。

会計事務所によってはこの他の仕事も手掛けているケースもありますが、一般的にはこの4つが大きな柱となります。これはどんな会社と付き合う際にも共通ですが、その会社の仕事(≒付加価値)を理解していないと、良いお付き合いはできません。会計事務所と良いお付き合いを実現する上では、会計事務所がどういった仕事をしているのかを理解し、その上で、何から何までを期待するか、そのためにいくら支払うかを依頼元(会社、顧問先)と会計事務所がキチンと合意することが重要です。

次回は、この4つの業務にまつわる会計事務所の戦略についてお話ししてみたいと思います。
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2011年05月17日

会計事務所? 税理士? 会計士?

弥生のパートナーとなっている会計事務所が4,000を超えたことを記念(?)し、これから何回かで会計事務所(税理士)の仕事や弥生との関係についてお話をしたいと思います。

さて、上記で会計事務所(税理士)という表記をしました。会計事務所、税理士、はたまた会計士。これらの単語自体はそれなりに耳馴染みがあるかと思いますが、これらはそもそもどう違うのでしょうか。

税理士とはその名の通り、税務の専門家。税理士法という法律で定められた国家資格です。おそらく多くの中小企業(個人事業含め)にとって、最も近い会計の専門家と言えば、税理士になるでしょう。この税理士の先生が事業として構えているのが、会計事務所です。多くの場合は、税理士=会計事務所と考えて差支えはないでしょう。ただ、会計事務所ではなく、税理士事務所という呼び方をするケースもあります。

会計事務所の変形ですが、昨今増えているのが、税理士法人。会計事務所は、税理士の資格を持った個人が事務所を構えてスタッフを雇っているものであり、通常の事業で言うところの個人事業者です。これに対して、税理士同士で集まって法人として活動しているのが税理士法人です。正確には少々異なりますが、通常の事業で言うところの株式会社のような法人と考えればよいでしょう。

では会計士は? こちらは、公認会計士という言い方もしますね。会計士は、その名の通り、会計の専門家です。会計士も国家資格ですが、こちらは公認会計士法という法律に基づいています。会計の専門家ということで、中小企業の会計の駆け込み寺としてふさわしいようにも思えるのですが、実際は、監査法人の社員として大企業や中堅企業の監査の仕事を中心としている方がほとんどです。ただ、実は会計士は所定の登録さえすれば、税理士としての活動もできるようになっています。このため、中には「公認会計士・税理士」という肩書で活動している先生もいらっしゃいます。こういった方の場合は、中小企業を顧問先としているケースも多いようです。

ということで、中小企業が頼りにすることができる会計の専門家という意味では、会計事務所、税理士事務所、税理士、会計士、税理士法人、などなど全て「あり」なのですが、本ブログでは一般的な呼称として「会計事務所」(先生個人としては「税理士」)としてお話ししていきます。

今回は本題に入る前の予備知識でしたが、実はこの「会計事務所の仕事」シリーズには出典があります。それは2月に出版した拙著「会計ソフトだけではダメ! 本当の会計の話」。この本では会計事務所って何から始まって、どうやって選ぶか、何をどのようにお願いすべきか、等々について書いています。本ブログでも徐々にお話ししていきますが、今すぐに知りたい、という方は是非拙著をお読み下さい(最後は宣伝でした、笑)。
posted by 岡本浩一郎 at 22:26 | TrackBack(0) | 業務

2011年05月06日

健康保険組合に加入するには

前回の記事では、一般的に協会けんぽよりも、健康保険組合の方が有利であるというお話をしました。実際、健康保険料率が協会けんぽの9.50%と同等、もしくは高い組合はわずか6.3%に過ぎません。逆に言えば、90%以上の健康保険組合が協会けんぽよりも低い保険料率となっているということです。

健康保険組合には単一の企業(社員700人以上)が設立するもの(単一健保組合)もあれば、同業種の複数の企業(合計で3,000人以上)が共同で設立するもの(総合健保組合)があります。新たに法人を立ち上げた場合、その性格上単一健保組合に追加で加入することはできませんが、属する業種に総合健保組合があれば、審査の上で加入することができます。

ただ、この審査、実はそんなに簡単ではないようです。どの健保組合も、自分の財政を厳しくするような新たな加入は認めたくないのが正直なところですから。健保組合はあくまで任意の組織であって、法律的に加入が保障されているものではありませんので、新たな加入を認めるかどうかは、その健保組合の判断次第です。

弥生が加入している関東ITソフトウェア健康保険組合は、加入基準をウェブ上で公開しています。業務がソフトウェアに関するものであることといった基準はまあ当然と思うのですが、4. 著しい低報酬月額の被保険者がいないこと、5. 被保険者の平均年齢が40歳未満であること、6. 扶養率については、当組合の平均を著しく上回らないこと、というのは、要は、財政を厳しくする新たな加入は認めないということかと思います。

報酬月額の件はともかくとして、平均年齢や扶養率については、理解はできるものの、う〜ん、という感じですね。50代の方数名が早期退職制度で会社を興した場合には確実に満たせなくなりますし、子どもの多い従業員が多ければやはり難しくなります。もっとも、毎月20〜30社以上はコンスタントに加入が認められているようですので、新規の加入が極端に厳しいというわけではありませんので、念のため。

現在協会けんぽに加入している場合、加入が認められる可能性のある(なおかつ保険料率などでメリットのある)健康保険組合がないか、調べてみるとよいかと思います。場合によって、加入の可能性のある健康保険組合が複数存在することもあります(例えば、関東ITソフトウェア健康保険組合東京都情報サービス産業健康保険組合など)。
posted by 岡本浩一郎 at 10:32 | TrackBack(0) | 業務

2011年05月02日

健康保険組合の仕組み

先日のブログ記事ではさらっと流してしまいましたが、この春からの健康保険料率は、協会けんぽが9.50%(全国平均)に対し、弥生も加入している関東ITソフトウェア健保組合が(大幅に引き上げられたとはいえ)8.50%。いまだに1.00%の差があります。さらに、40才以上の方が対象になる介護保険料も含めて考えると、協会けんぽが11.01%に対し、関東IT健保は9.50%とその差は1.51%に広がります。

従業員としてはこの差の半分を負担しているわけですが、先日と同じロジックで言えば、これは同じ中小企業でも協会けんぽに加入している中小企業の従業員か、関東IT健保に加入している従業員かで、事実上消費税1%以上に相当する格差が発生しているということです。

なぜこういったことが起きるか、ですが、三つ理由があるかと思います。まず、関東IT健保はIT企業が加入して組合のために、加入者の平均年齢が低いと言われています。比較対象となる協会けんぽでは被保険者の平均年齢が43.6歳(約一年半前の数字なので現在は+α?)。一方で、関東IT健保は35.1歳(平成23年予算)と10歳以上の差があります。平均年齢が低い = 病気になりにくい = 医療費での保険給付が少ない、ため低い保険料率でも成り立ちやすいということです。

二つ目ですが、扶養家族が少ないということ。協会けんぽは被保険者数が1,952万人に対し、被扶養者数が1,531万人。直接的な保険加入者(従業員)一人に対し、その扶養家族が0.78人という割合ですね。これに対し、関東IT健保のこの比率は、0.61人です(うーん、想像はできますが明確な差ですね、苦笑)。保険料は扶養家族があっても増えませんが、保険給付は扶養家族が増えるほど増えますので、扶養家族が少ないほど財政上は有利になります。

三つ目ですが、報酬が高いということ。協会けんぽの平均標準報酬月額が279,216円に対し、関東IT健保は390,000円と実に40%近く上回っています。保険料は報酬に連動しますので、報酬が全体的に高いほど、保険料収入も増えることになります。

要は保険料収入が見込める一方で、保険給付が少なくすむ加入者ばかりが集まっているから、保険料率を低く抑えることができるわけです。

さらに言えば、関東IT健保は日本全体で1,447ある健康保険組合の中でも恵まれた組合です。先ほど三つの条件を完璧に満たしているからです。まず、加入者の平均年齢ですが、例えば、東京都土木建築健康保険組合は被保険者の平均年齢が45.7歳(ここを選んだのはたまたま検索で引っ掛かったからで、他意はありません)。一方で、関東IT健保は35.1歳ですから、実に10歳以上の差があります。

二つ目の扶養家族ですが、健康保険組合の連合組織である健康保険組合連合会(健保連)によると、1,447ある健康保険組合では、被保険者数が1,559万人に対し、被扶養者数が1,397万人。保険加入者(従業員)一人に対し、その扶養家族が0.9人。これに対し、関東IT健保は、0.61人。そして、三つ目の報酬ですが、健保連の平均値は平均標準報酬月額が361,660円に対し、関東IT健保は390,000円と7.8%ほど上回っています。

今回の関東IT健保の料率引き上げは、これだけ優良な健保組合でも、料率を引き上げざるを得ない状況になってきているということです。これは特に平成20年度より、後期高齢者医療制度がスタートし、現役世代が加入する健保組合が高齢者医療制度に納める納付金が大きく増えてきたことによります。このため、平成23年には、1,447ある健康保険組合のうち、約90%が赤字となることを予想しています。関東IT健保はまだ黒字の10%に含まれていますが、逆に言えば、今回料率を引き上げなければ赤字に転落していたということでしょう。
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2011年04月22日

税金の臨時特例

東日本大震災の被災者等の負担の軽減を図るため、税金について、様々な特例処置が設けられるようです(国会での決議はこれから)。法律案要綱が公開されていますが、一般の人にはなかなか読解が難しいですね。そこで「元フリーターの不敵な税理士」後藤先生が取り急ぎポイントをまとめて下さいましたので、ここで共有させて頂きます。

被災者の負担の軽減を図るという趣旨ですので、特例の対象となるのは、基本的に被災された方(個人、個人事業主、法人)となります。

[雑損控除]住宅や家財等に係る雑損控除は22年(昨年)分の所得で適用できる。今年以降の繰越可能期間を現行の3年から5年にする。
[事業者の被災]事業者は被災事業用資産の損失を22年の必要経費にできる。青色申告者はさらに21年に遡ることもできる。今年以降の繰越可能期間を現行3年から5年にする。
[ローン控除]住宅ローン控除は、対象の住宅が焼失等していても継続適用。
[被災した法人]23/03/11〜24/03/10に終了する事業年度につき、震災損失がある法人はその損失額を2年遡って繰り戻し還付ができる。
[被災した資産の代替]28/03/31までに被災資産の代替として取得する資産については特別償却(割増償却)可能。被災した資産の建替え、再建造再取得は登録免許税を免税、これらの請負契約書等の印紙税を非課税に。
[相続税贈与税]震災後に申告期限がくる相続税、贈与税は期限を延長し、震災後の財産評価を基にして計算が可能。
[消費税]消費税の各種届出の遅延を認める。

一方で、被災された方以外に対しても影響が生じます。本ブログでも色々と取り上げた寄附金に関する税制ですね。

[寄付金控除]23、24、25年の所得税で寄付金控除の上限を現行の総所得の40%から80%に拡大。

上記の法律案要綱では、認定特定非営利活動法人及び共同募金会連合会に対して支出した震災関連寄附金に関する扱いに関しての記述もあるのですが、もう少し調べた上で改めて共有させて頂きます。寄附金については、既に運用ベースで扱いが変わってきており(赤十字向けもふるさと納税と同様の扱いが認められるなど、基本的に税金が下がる方向で)、3月にアップした内容の更新も必要になっています。

蛇足ですが、今週二つのインタビュー記事が掲載されましたので、お時間がある時にでも是非ご覧下さい!

復興への活力--元気を出せる企業がなすべきこと」(ITmedia)
SaaSは成長を加速する柱の一つ 弥生 代表取締役社長 岡本浩一郎氏」(ITpro)

posted by 岡本浩一郎 at 15:07 | TrackBack(0) | 業務

2011年04月13日

子ども手当

意図してではないですが、前回に引き続いて子供の話です。ただし、今回は弥生の業務にもかかわる話、そう「子ども手当」です。まだ正式な決定ではないのだと理解していますが、報道によると政府・民主党が災害復興の財源確保のために「支給期限が切れる10月以降は廃止する方向で調整に入った」ということです。ご承知のように、子ども手当はこの4月から9月までの継続支給がギリギリの3/31につなぎ法案として決まりました。とりあえず9月までは継続するが、それ以降は断念ということのようです。

災害復興に巨額の財源が必要だということは明らかですし、そのためには、国民みなが負担をしていかなければならないことも明らかです。ただ、ここで引っ掛かるのは、子ども手当の財源は何もないところから生まれたのではなく、その引き換えとして、年少者(16才未満)の扶養控除をなくすことによって、捻出された財源だということです。ですので、子ども手当はなくなりました、でも年少扶養控除はなくなったままですと、従前であれば年少扶養控除を受けていた世帯のみに負担を強いるということになります。

子ども手当という制度自体の是非はともかくとして、子どもを安心して迎え、育てられるようにしようという趣旨自体は日本の未来のために間違いなく必要なことです。しかし、今回、万が一子ども手当だけが廃止(年少扶養控除の復活なし)となると、その趣旨と完全に逆行する結果を産むことになります。

例えば、今年の子ども手当の支給額は1月〜9月になりますので、13,000円×9で、11万7千円。10月からは児童手当が復活するとして、5,000円×3を足すと13.2万円です。一方で、今年から廃止された年少扶養控除は38万円の所得控除(住民税では33万円)でしたから、所得税の税率5%の家庭で所得税が1.9万円、住民税(一律10%)が3.3万円で合計5.2万円税金が増えることになります(ただし住民税が実際に増えるのは来年の6月から)。このケースで言えば、去年までが児童手当が6万円であったものが、今年は、子ども手当+児童手当13.2万円受給と同時に5.2万円増税で実質8万円ですから、6万円から8万円で何とかプラスとなります。

ただ、それ以外の世帯では、ほとんどのケースで増税分が子ども手当(+対象となれば児童手当)を上回ってしまい、マイナスとなります。さらに、来年に関して言えば、税率が5%の方も含め、子どものいる家庭にとっては、軒並み実質的な増税になってしまいます。さすがにどんな事情があるにせよ、この状況は避けるべきではないでしょうか。

弥生という立場からすると、弥生給与/やよいの給与計算で年少扶養控除の廃止という法令改正対応をしたものを、下手をすると、もう一度逆の対応をする必要がでてくるわけで、かなり複雑な気持ちです。ただ、弥生としてどんな対応が必要になるにせよ、子どものいる家庭に一方的に負担を強いるような制度になってはならないと強く感じています。

(4/14修正) 数字に一部誤りがありましたので、修正しました。
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2011年03月15日

確定申告本日締め切り、ただし救済措置あり

いよいよ今日3/15(火)で、平成22年分の確定申告が締め切られます。昨年も全く同じことを書きましたが、郵送の場合、3/15の消印があればokです(通信日付印により表示された日が提出日になります)。またe-taxでは、3/15の23:59まで大丈夫なようです(こちらのページに、「3月16日(水)の午前0時を過ぎて受信した平成22年分の所得税確定申告のデータは、確定申告期限後に提出されたものとなりますのでご注意ください」と書かれています)。23:59:59まで大丈夫なのか、誰かチャンレンジして頂きたいところですが...

申告期限を過ぎると65万円の青色申告特別控除が認められない、無申告加算税が課されるなどペナルティが大きいので、申告期限は守りましょう。ヘンな言い方ですが、多少内容に不安があっても、まずは期限内に出すことが重要かと思います(当然故意に全然できていない申告書を出すのではダメでしょうが)。

来年から青色申告という方にとっては、今日3/15が青色申告承認申請書を提出する期限となります(青色申告承認申請書も郵送でokです)。今年新たに事業を始められる方であれば、開業日から2ヶ月以内の申請で大丈夫ですが、これまでも事業を営まれていた方は今日中に申請が必要です。本ブログで何度も書いてきましたが、青色申告には大きなメリットがありますので、是非お忘れなく。

なお、昨日青森県、岩手県、宮城県、福島県、茨城県については、期限が延長されることが決まっています、と書きましたが、それ以外の地域、具体的に言えば、計画停電による影響が及ぶ地域でも、確定申告期限の延長が認められるようです(結果的に停電していなくても、現実的に外出を控える等の影響は生じていますのでokのようです)。こちらは東京税理士会による会員(税理士)向けの案内ですが、「その他地域では『災害による申告、納付等の期限延長申請書』により申請すること」とされています。このページからは、当該申請書(pdf)もダウンロードできます。

実際の記入例も入手しましたが、

表題に「地震の影響による計画停電」により被害を受けました
申請内容の期限の種類に「所得税確定申告及び納付」
申請内容の法定期限に「平成23年3月15日」
申請内容の申請期限は、延長の指定を受けようとする期日
被災状況に「東北地方太平洋沖地震の影響で東京電力による計画停電が実施されたことにより、税務署で相談できなかったため、申告書を期限内に提出できなかった。」

と記入し、「原則として災害のやんだ日から1か月以内に申請してください」とのことです。

これは朗報ですね。ただ、実際に影響を受けていないのに、これを活用(悪用)して期限の延長を図ることは単なる問題の先送りに過ぎませんので、やめましょう。逆に、計画停電の対象地域でないが、地震の影響はあった(例えば、親族の安否確認で申告の準備ができなかった)というケースも救済措置が適用されるかは、現段階で明確ではありませんが、税務署に問い合わせる価値はあるかと思います。

もちろん、間に合うに越したことはないのですが、ここ東京にいても一定の影響を受けていることは実感しますし、これを現実的な災害の被害として救済がなされるということで、ホッと一安心です。昨日は「国税庁の大局的な判断を期待しています」と書きましたが、税理士会でこのような指示が出ると言うことは、当然のことながら、国税庁の判断ということだと思いますので、感謝したいと思います。

[3/15 15:15追記]
国税庁のサイトでも青森県、岩手県、宮城県、福島県、茨城県以外での期限延長について情報がアップされていました。延長が認められるケースが5つ挙げられていますが(上記の例は3もしくは5に該当します)、「上記の事情に該当しない場合であっても、今般発生した地震の影響により申告・納付等ができない方につきましては、所轄税務署にご相談ください」とありますので、実際に震災で影響を受けられた方は相談してみるとよいかと思います。
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2011年03月10日

青色申告と税理士

青色申告には大きなメリットがある、だから個人事業主であれば皆是非、青色申告を、ということをお話ししてきました。青色申告には一定の手間はかかりますが、投資(手間)対効果(節税)を成り立たせるのが、会計ソフトということでしたね。

もう一つオプションがあります。それは税理士の先生にお願いすること。税理士に青色申告をお願いした場合の費用相場はなかなか難しいのですが、10万円以下でお願いできるケースもあります。正直、取引の量などにも左右されるので、一概には言えませんが。

実質的な収入(売上-経費)が300万円の方で、所得税・住民税・国民健康保険料のトータルで15万円以上節税できるわけですから、それこそ10万円の費用を払ってもお釣りが来ます。なおかつ、ここでの15万円というのは保守的に計算していますので、介護保険の対象となる場合や専従者給与を支払う場合などには節税額はもっと大きくなります。ですので、そこそこの費用でお願いできる税理士を見つけることができれば、費用は賄った上で、充分にメリットを享受しうるのです。

では、会計ソフトでやるか、税理士の先生にお願いするか。会計ソフトを提供している立場からすると、会計ソフトで、と言いたいところですが、これはご自身の時間単価で考えると良いでしょう。例えば、先ほどの実質的な収入(売上-経費)が300万円の方が青色申告をすると、所得税/住民税/国民年金保険料/国民健康保険料を支払った後の実質的な手取りは約240万円となります。つまり月に20万円。先ほどの15万円の節税は、手取りでの節税(手取り額がそれだけ増える)わけですから、15/20=3/4で、ざっくり3週間分の労力をかけてでも、勝ち取る意味はあるということになります。

青色申告にどれだけ時間がかかるか。これはやはり人によりますので、何とも言えませんが、フルに時間を使うのであれば、2日ぐらい。慣れていない初回でも一週間ぐらいでしょうか。一週間分の労力で3週間分の手取りを勝ち取れるのであれば十分ペイしますね。極端に言えば、3週間までであればペイしうるということです。

一方で、収入が大きい人は、状況が変わります。例えば、実質的な収入(売上-経費)が1,000万円の方は、手取りが約710万円。つまり月に約60万円。一方で、青色申告による節税額は約21.5万円。ですから、一週間分の労力であれば、まだペイするけれど、それ以上かかるようだと採算割れとなるわけです。それであれば、最初から税理士にお願いするというのも選択肢です。

ただ、(知人の紹介などは別として)そもそも年一回のスポットの契約は受けないという先生も多いですし、受けたとしても報酬が10万円ではおさまらないケースも十分あり得ます。ですから、税理士にお願いする場合は、とにかく早く動きましょう。残念ながら、今から今年分の申告をお願いするというのは余程のことがない限り、受けて頂けないと思います。年明けぐらいには、目処をつけておく必要があります。

なお、念のためですが、ここで言う青色申告は個人(所得税)の申告です。法人でも青色申告がありますが、法人の申告の場合には、自社でやるケースはほとんどなく、一般的には税理士にお願いすることになります。
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2011年03月08日

会計ソフトと簿記の知識

昨日、「青色申告の投資(手間)対効果(節税)を成り立たせるのが、会計ソフト」と書きましたが、会計ソフトに関してよく質問されるのが、使う上で簿記の知識は必要ですかということ。会計ソフトは、青色申告の手間を大きく下げる有効な武器とわかっていても、やはり簿記が...ということで、敬遠される方もいらっしゃるようです。

弥生会計/やよいの青色申告では、(複式)簿記の知識がなくても、使い始めることはできます。具体的には、「簡単取引入力」という画面があります。これは実際に発生した取引を選択肢の中から選ぶ、そしてそれが仕訳として自動的に記録されるという仕組みですので、簿記を全く知らなくても使うことはできます。複雑な取引をされていない方であれば、簿記の知識があまりなくても、一応見た目上はととのった申告書を作成することはできるでしょう。

それでは簿記の知識は意味がないか、というと、そんなことはありません。やはり簿記の知識はあった方がベターです。会計ソフトが色々とフォローしてくれるにせよ、そこで記録された取引が何を意味するのか、最終的にどうやって貸借対照表ができるのか、といったことを正確に理解するためには、やはり簿記の知識が役立ちます。何よりも簿記の知識はかのゲーテ曰く、「人間の精神が産んだ最高の発明の一つ」。日々の経営をする上で必ず役に立ちます。

理想的に言えば、会計ソフトが簿記を学ぶための一助でありたいと思っています。最初は簿記の知識がなくても、会計ソフトを使っているうちにだんだんと知識がついてくる。実際、最初は簡単取引入力を使っていても、使っているうちに、振替伝票などを活用するようになる人も多いのです(その方が汎用性がありますし、速いですので)。

これを確実に実現するためには、ソフトとしてまだまだ改善の余地があります。一方で、弥生が提供しているのはソフトだけではありません。昨年から提供を開始した業務マニュアルもそうですし、今回私が出版した「会計ソフトだけではダメ! 本当の会計の話」もそうです。

メリットが大きい青色申告。そのメリットを享受するためには、簿記が...と言わず、是非会計ソフトを利用して頂きたいと思います。極論ですが、仮に利用するソフトが弥生以外であったとしても、やはり是非青色申告はするべきだと考えています。もちろん、ベストなのは弥生だという確信を持っての発言ですが。
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2011年03月07日

青色申告と会計ソフト

先週に引き続いて、青色申告って大変なの?、というお話です。先週は、青色申告は、ある程度手間がかかるのは事実、ただ、白色申告と比べて倍の手間がかかるということではないし、そのエクストラの手間に十分見合うだけの節税が実現できる、というお話をしました。

確かに手間はかかります...。ただし、その手間を青色申告のメリット(節税)に十分見合うレベルに下げることができるのが、会計ソフトです。弥生では、個人事業主向けに「やよいの青色申告」を発売しています。何に利用するソフトかわかりやすくということで、「青色申告」という名前が入っていますが、中身的には弥生会計(会計ソフト)と基本的には変わりません。

会計ソフトを提供している立場ですから、どうしてもバイアスがかかった発言と取られてもやむを得ないのですが、青色申告は会計ソフトを活用して初めて投資(手間)対効果(節税)のバランスがとれます。会計ソフトを利用しなければ青色申告(特に65万円控除の複式簿記)ができないとまでは言えません。それこそ昔は、今のように手軽に利用できる会計ソフトはありませんでしたし、今でも昔から青色申告をされている方は手書きでという方もいらっしゃいます。しかし、会計ソフトを利用するかしないかでは手間が大きく異なります。

既に手書きで青色申告をされている方の場合、取引を記録すること(記帳)自体は慣れていらっしゃるので、問題はないのでしょうが、やはり手間がかかるのは集計でしょう。手書きの場合、例えば、まず振替伝票を起こし、それを集計するために、取引を仕訳日記帳に手で転記して、さらに総勘定元帳に手で転記して計算する必要があります。青色申告をする場合には、期首と期末の貸借対照表を作成する必要がありますが、この転記と計算の繰り返しを一年間積み重ねてようやく完成となります。しかも途中でミスがあったら、大変です。ミスがあった個所まで遡って修正と再計算。この時期になると、今年の申告はこれまで通り手書きで済ませたんだけど、来年はそろそろPCを使って申告をしたいので、と「やよいの青色申告」をお買い求めになるケースが多くなるのも、この苦労を来年はしたくないという方が多いからかと思います。

一方で、青色申告は初めてという方に関しては、ますます会計ソフトなしには成り立ちません。上の文章で、振替伝票やら総勘定元帳やら貸借対照表という用語がでるだけで、ダメだ...という方も多いのではないかと思いますが、今どきの会計ソフト(少なくとも弥生会計/やよいの青色申告)では、こういったいわゆる会計や簿記の用語を知らなくも使い始めることができるようになっています。

投資(手間)対効果(節税)を成り立たせるのが、会計ソフト。言い方を変えれば、会計ソフトという手間を大きく下げる有効な武器が、これだけ手軽に活用できるようになったからこそ、誰でも青色申告をした方がよいと言えるようになったのです。今回は(あまりその気はないのですが)、宣伝ぽくなってしまい、スイマセン。
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2011年03月04日

青色申告って大変?

青色申告に関するよくある誤解シリーズということで、先々週は「青色申告って本当にオトク?」、そして先週は「どうせ赤字だから青色申告しなくても…」というお話しをしてきました。これらの総括として、今週火曜日には「で、結局青色申告って誰のため?」という記事をアップしました。個人事業主であれば、黒字であろうと赤字であろうと、必ずメリットがある、だから原則として誰でも青色申告をした方がよいという結論でした。

ただ、実はまだよくある誤解シリーズの最後の質問、「手間がハンパない?」にはお答えしていません。ということで、本日のお題ですが、青色申告ってどれぐらい大変なのでしょうか。まず簡潔にお答えすると、「それなりに大変。でもやる気になれば誰でもできる」ということになります。

全く手間がかからない、大変ではないというと嘘になります。それなりに時間も手間もかかります。ただし、個人で事業をやっている以上は、いずれにせよ、必ずこの2月中旬から3月中旬までに確定申告はしなければなりません。これまでお話ししてきたように、確定申告では白色申告(何も申請しなければ基本はこちら)と青色申告のどちらかとなりますが、どちらであっても、結局売上を集計し、売上を得るのにかかった経費も集計しなければなりません。そう考えると、変な言い方ですが、いずれにせよ、時間も手間もかかるのです。

いずれにせよ、時間も手間もかかる。それでいて、税金は大きく異なります。これは先々週からお話ししてきたことですが、青色申告を選べば、例えば実質的な収入(売上-経費)が300万円の方で、所得税・住民税・国民健康保険料のトータルで15万円以上節税できるわけです。また、赤字であれば、将来その赤字を活用して大きく節税することができます。

これも正確に言えば、確かに白色申告であれば、青色申告よりは手間はかかりません。青色申告で65万円控除を受けられる複式簿記を選んだ場合には、何かでお金を使った場合、何に使ったか、だけではなく、どこからお金を使ったかも記録する必要があります。これが白色申告であれば、その片割れの、何に使ったか、だけの記録で済みますので、確かに白色申告の方が手間は少なくて済みます。ただ、片方だけを記録するのか、あるいは、両側を記録するのか、で記録をするということには変わりはありませんし、両側だから手間が2倍に増えるというわけではありません。

つまり、ある程度手間がかかるのは事実です。ただ、白色申告と比べて倍の手間がかかるということではないですし、そのエクストラの手間に十分見合うだけの節税が実現できる、それが青色申告と言えると思います。

さらに、今どきの青色申告には、会計ソフト(青色申告ソフト)という強い味方があります。また、青色申告をいかに簡単に行うか、という意味で必ず知っておくべきノウハウもあります。来週は、いかに手間をかけずに青色申告を行うかについてお話を続けていきます。
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2011年03月01日

で、結局青色申告って誰のため?

青色申告に関するよくある誤解シリーズということで、先々週は青色申告にすることでどれだけ節税ができるかをお話ししました。複式簿記による青色申告であれば、年収300万円の方で、所得税・住民税・国民健康保険料のトータルで15万円以上手取りが増えるということでしたね。

ちなみに、先々週の例では実質的な収入(売上-経費)が300万円もしくはそれ以上の例のみご説明しましたが、お問合わせがありましたので、補足しますと、収入が100万円や200万円の場合でもやはり大きな節税になります。これまでと同様のモデルで計算すると、収入が100万円の場合はトータルで9.4万円の節税、収入が200万円の場合はトータルで14.4万円の節税になります。

注: これらのモデルは、横浜市の国民健康保険料をベースに計算していますが、他の自治体でも計算ロジックや保険料は多少変わっても、節税効果があることには基本的に変わりありません。なお、今回のモデルでは介護保険は対象外(40才未満)としていますので、介護保険の対象者(40才以上)の場合には、節税額はさらに増えます。

そして、先週には、赤字でも青色申告のメリットがあるというお話をしました。青色申告であれば、複数年での損益の通算ができるため、初年度が赤字でも青色申告をしておけば、翌年の黒字と相殺し、大きく節税できるということでした。赤字でも青色申告というよりも、赤字だからこそ青色申告しておくべきということかと思います。

ということで本日のお題である「で、結局青色申告って誰のため?」ですが、結論的には、個人事業主であれば、黒字であろうと赤字であろうと、誰でも青色申告をした方がよいと言えるかと思います。

唯一の例外としては、赤字脱却の目処が立たない場合でしょうか。赤字がずっと続き、黒字化の目処が立たないようであれば、複数年での損益の通算のメリットを活かせませんから、青色申告という手間をかけるまでもない、ということになるでしょう。ただ、個人事業主は、事業の黒字で生活を成り立たせるのが前提ですから、一年/二年は貯蓄でなんとかしのぐにしても、万年赤字では(普通は)そもそも生活が成り立ちませんね。
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2011年02月25日

どうせ赤字だから青色申告しなくても…

青色申告に関するよくある誤解シリーズということで、先週は青色申告にすることでどれだけ節税ができるかをお話ししました。複式簿記による青色申告であれば、年収300万円の方で、所得税・住民税・国民健康保険料のトータルで15万円以上手取りが増えるということでしたね。

一方で、どうせ赤字だから青色申告なんて関係ない、という方もいらっしゃいます。特に事業を立ち上げたばかりだから、今年は関係ないという方が多いようです。

実は、赤字だからこそ青色申告をすべきなのです。なぜならば、白色申告では認められていない複数年での損益の通算が、青色申告では認められているからです。「青色申告応援プロジェクト」でも解説していますので、その例をそのまま引用しますが、例えば、1年目は事業の立ち上げで経費も嵩み赤字が300万円、2年目からは黒字に転換し、2年目が50万円、3年目が100万円、4年目には300万円になった場合。

白色申告でも、青色申告でも、1年目(赤字300万円)については、所得税は発生しません。ところが、2年目以降で大きな差がつきます。白色申告の場合、過去の赤字に対する考慮は一切ありませんので、2年目で50万円、3年目で100万円、4年目では300万円の黒字(収入)に対するそのままかかります。もちろん、青色申告特別控除もありません。要は4年間でトータル450万円に対する所得税が発生します。

これに対して、青色申告の場合。1年目(赤字300万円)については、所得税は発生しません。一方、2年目以降は発生した黒字(収入)を過去3年間の赤字と相殺することができます。このため、2年目の50万円は相殺されてゼロ(すなわち所得税ゼロ)、3年目の100万円も相殺されてゼロ、4年目に300万円の黒字が発生すると、残っている赤字150万円(=300-50-100)と相殺され、差分の150万円に対してのみ所得税が発生します。つまり4年間でトータル150万円分しか所得税は発生しないのです。

確かに事業の立ち上げ期は、色々と費用も嵩みますし、一方で売上の確保にも苦労しがち。このため、赤字になることも珍しくありません。ただ、2年目以降は黒字化していかないとそもそも生活が成り立ちません。青色申告であれば、無事に黒字化した時に大きく税金を減らすことができます。ある意味、初年度も赤字も決して無駄ではなかったということになります。

この考えると、初年度で、赤字が見込まれるからこそ青色申告と言えるのではないでしょうか。
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2011年02月23日

税理士記念日

今日2/23(水)は... ふ(2)じ(2)さん(3)で富士山の日だったり、つ(2)つ(2)み(3)で風呂敷きの日だったりしますが、会計業界的に言えば、2/23は税理士記念日です。はて、どうやったら税理士を223と読めるのかと迷いますが、こちらはかなり真面目なルーツがあるようです。なんでも、税理士法の前身である税務代理士法が昭和17年2月23日に制定されたことに由来するそうです。

この税理士記念日(もしくはその前後)には、全国の税理士会で無料税務相談、講演会、税金セミナーなどを実施しています。最近お付き合いの多い、東京地方税理士会 戸塚支部では、戸塚法人会館で税理士による無料相談会を開催するそうです。所得税確定申告、贈与税など様々な相談に無料でのっていただける良い機会ですので、お近くの方は是非立ち寄られてはいかがでしょうか。ちなみに、日頃お世話になっていることもあり、弥生もブースを設置し、デモ等を行います。

日時は2011年2月23日(水) - 今日!、13:00〜19:00(19:00で受付終了)。場所は戸塚法人会館(横浜市戸塚区上倉田町449-2)の2階会議室。無料税務相談ですから、当然相談料は無料!です。特に事前の申し込みは必要ないということで、直接現地にお越し下さい。戸塚区、栄区、泉区の方は、当日の4時までは申告書の提出が可能ということで、関係する書類を一式持っていくと吉です。

なお、東京地方税理士会 戸塚支部以外でも本日もしくはその前後に同様のイベントを開催しています。参加してみたい、という方はお住まいの地区の税理士会にお問合わせしてみてはいかがでしょうか。
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2011年02月18日

青色申告って本当にオトク? (その4)

青色申告によってどれだけ節税ができるのかを見てきましたが、一点ご注意頂きたい点があります。青色申告応援プロジェクトでもご説明していますが、実は一口に青色申告と言っても二つの方式があるのです。一つは複式簿記によるもの、もう一つは簡易簿記によるものです。「オトク」という観点で違いが出るのが、青色申告特別控除の額。昨日までお話しした特別控除額65万円というのは、前者(複式簿記)の場合です。後者(簡易簿記)の場合、控除額はわずか10万円になってしまいます。

65万円と10万円、確かに差は大きいけど特別控除(収入をその分なかったことにできる)があるだけまだいいんじゃないの。基本的にはその通り、10万円控除でも、そもそも特別控除のない白色申告よりはオトクです。ただ、この65万円控除と10万円控除は最終的には大きな差を生みます。

昨日までのモデルケースでは、収入(売上-経費)が300万円の個人事業主では、青色申告にすると、所得税などの節税が合計15.6万円見込めるとお話しさせて頂きました。所得税上の所得が減った結果、住民税も減り、なおかつ、住民税が減った結果、国民健康保険料も減るという「節税の玉突き現象」が起こる、このため所得税の減税4.1万円だけでなく、住民税が6万円、さらに国民健康保険も5.5万円減って、合計15.6万円の節税ということでしたね。改めて補足すると、これは複式簿記による青色申告、すなわち特別控除が65万円の場合です。

それでは、あえて複式簿記にせず、簡易簿記で10万円控除となった場合、節税額はいくらになるでしょうか。実は、この場合、節税額はトータルでもわずか2.7万円になります(所得税0.9万円、住民税0.9万円、国民健康保険料0.9万円、国民健康保険料はこれまでと同様横浜市の場合)。確かに、簡易簿記は複式簿記よりは若干簡易な方式です。ただ、その手間を惜しんだ差はとても大きいのです。複式簿記では15.6万円節税できるのに、簡易簿記では2.7万円。実に5.7倍もの差が出ます。

ちなみに、年収が500万円と1,000万円のケースでは、500万円の場合、複式簿記で23.3万円が簡易簿記で3.6万円。1,000万円のケースでは、複式簿記で21.5万円が簡易簿記では3.3万円。いずれも大きな差が生まれます。

青色申告は本当にオトクか。これは昨日もお答えしたように「オトク」です。年収300万円の方でも15万円以上の節税が見込めるわけですから。ただ正確に言えば、オトクなのは複式簿記による青色申告です。最終的には個々人の判断ではありますが、ちょっとの手間を惜しんで簡易簿記を選択するのは、正直もったいないと思います。

なお、青色申告ソフトは一般的には複式簿記による青色申告をサポートしますが、ごく一部、簡易簿記しかサポートしない(結果として特別控除額が65万円ではなく、10万円しか得られない)ソフトも存在します。お買い上げの際には注意して下さいね。もちろん、シェア圧倒的No.1の「やよいの青色申告」であれば安心です。
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2011年02月17日

青色申告って本当にオトク? (その3)

昨日は収入(売上-経費)が300万円の個人事業主では、青色申告にすると、所得税などの節税が合計15.6万円見込めるという仕組みについて解説させて頂きました。所得税上の所得が減った結果、住民税も減り、なおかつ、住民税が減った結果、国民健康保険料も減るという「節税の玉突き現象」が起こる、このため所得税の減税4.1万円だけでなく、住民税が6万円、さらに国民健康保険も5.5万円減って、合計15.6万円の節税ということでしたね。

さて、上の例は年収が300万円でしたが、もっと年収が多い場合にはどのような節税効果が見込めるでしょうか。やはり年収が多くなるほど、節税額は大きくなる? 実はこの答えはYesでもあり、Noでもあります。

同じようなモデルケース(国民健康保険は横浜市を想定)で計算すると、収入500万円では、合計23.3万円の節税(所得税11.9万円、住民税6万円、国民健康保険5.4万円)が見込めます。さらに収入1,000万円の場合は? この場合は、合計21.5万円の節税です(所得税15万円、住民税6.5万円、国民健康保険0円)。あれ、両方とも年収300万円の時と比較すれば、合計での節税額は大きくなりますが、年収500万円と1,000万円では、なんと年収500万円の方が節税額が大きいですね。これは内訳を見て頂ければわかりますが、国民健康保険で節税効果が発生していないためです。あくまでも横浜市の場合ですが、国民健康保険の保険料には上限が設定されており、この上限で保険料が頭打ちになりますので、節税効果が生まれません(具体的には、この場合、青色申告でも白色申告でも、国民保険料が上限の63万円となり、節税になりません)。

一方で、節税の内訳で所得税を確認して頂くと、所得税の節税額は収入が上がるに従ってどんどん増えます。これは、その1でお話しした通り、所得税の税率が所得が上がるほど高くなる累進課税だからです。一方で、住民税の節税額はどの年収でも6万〜6.5万円になります。これは住民税の税率が所得によらず一律の10%であるため、節税額は凡そ65万円×10%程度になるのです(ちょうど65万円×10%にならないのは、国民健康保険料が下がることによって、社会保険料控除が減り、住民税が若干上がることがあるためです)。

ということで、結論から言うと、所得税は年収が上がるほど青色申告特別控除による節税効果が高まりますが、全体での節税額はそこまで極端に変わりません。逆に言えば、年収がそれほど高くない人でも青色申告のメリットはとても大きいのです。

実は弥生では先般「個人事業者の確定申告に関する調査」を行い、その結果を発表しました。この調査では一般に年収が高い方ほど、青色申告をされている率が高いということがわかりました。一方で、年収300万円の方でも約半数の方が青色申告をされているという結果でした。この結果も上記の「オトク」さを考えると納得ですね。

ということで、「青色申告って本当にオトク」という当初の疑問ですが、答えはずばり、「本当にオトク」です。オトクなのは年収が高い人に限られません。年収300万円の方であれば、所得税・住民税・国民健康保険料のトータルで15万円以上手取りが増えます。さあ、これでもまだ青色申告って...と思われますか?

(注)その1,その2での節税額の計算に一部誤りがありましたので、遡って修正しました(結果的に節税額が増えています)。
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2011年02月16日

青色申告って本当にオトク? (その2)

さて、昨日は収入(売上-経費)が300万円の個人事業主では、青色申告にすると、所得税が4.1万円、住民税が6万円、さらに国民健康保険が5.5万円の合計15.6万円減る、とお話ししました。

青色申告で得られる「青色申告特別控除」というのはあくまで所得税上の優遇です。所得税の確定申告書を見たことのある方はわかると思うのですが、個人事業主の場合、確定申告書上の収入金額はいわゆる売上になります。ただし、この収入金額が直接税金の対象となるわけではありません。税金の対象になるのは、経費等を引いた「所得金額」です。実は、この所得金額、青色申告の場合、売上-経費ではなく、売上-経費-青色申告特別控除となるのです。これが、青色申告特別控除の分は収入としてなかったことになり、税金を払わなくて済む、という仕掛けです。

一方、住民税や国民健康保険に関しては、直接的に青色申告特別控除があるわけではありません。ただし、通常は所得税上の所得が自動的に住民税の対象となる所得になります。つまり、所得税で青色申告特別控除を反映した「所得」が住民税のベースとなるため、結果的に住民税自身に青色申告特別控除があるのと同様の効果になるのです。もっと簡単に言えば、青色申告をすることによって、住民税も減るのです。場合によっては、所得税以上に。

次に、国民健康保険ですが、これは昨日もお話ししたように、自治体によって計算方法が違います。ただし、いくつかよくある計算パターンが存在します。例として挙げた横浜市の場合は、住民税(の一部である市民税)が出発点となり、「市民税×0.00 + 被保険者数×00,000」という計算です。このため、所得税上の所得が減った結果、住民税も減り、なおかつ、住民税が減った結果、国民健康保険料も減るという「節税の玉突き現象」が起こるのです。上記の例では、青色申告をすることによって、国民健康保険が5.5万円減ります。やはり所得税以上に減っています。

なお、国民健康保険の計算パターンでもうひとつよくあるのが、住民税が出発点となるのではなく、所得が出発点となり、「所得×0.00 + 被保険者数×00,000」となるパターン。この場合も、所得は基本的に所得税上の所得がベースとなります。ただし、必ずそうである、という裏付けまではとれていません(何せ、自治体ごとにルールが決まっていますので)。あくまでも一般的には、ということで、正確には、ご自身の自治体にお問合わせされることをお勧めします(結果として、青色申告控除が反映されないという計算ルールの自治体があった場合には是非お知らせ下さい)。

逆に青色申告特別控除が反映されないということが明確に決まっているのが、事業税です。事業税の場合は、課税対象として所得に青色申告特別控除を足し戻す(控除がなかったことにする)ということが明文化されていますので、事業税に関しては、青色申告でも白色申告でも税金は変わりません。

ここから先は完全に自治体(と家族環境)によりますが、たとえば保育園の保育料なども、所得税、もしくは住民税や所得に連動して決まるケースもあります。この場合は、所得税上の青色申告特別控除が、結果的に保育料を下げるという効果につながります。後は、所得がいくらまでであれば、子供の医療費が免除になるですとか、所得によって扱いが変わる場合もありますね。

ちなみに、上の例では収入300万円ですが、収入がもっと大きい場合にはどうなるか、明日続きをお話ししたいと思います。
posted by 岡本浩一郎 at 18:07 | TrackBack(0) | 業務