2018年08月10日

中年起業家

私がアルトアを起業したのが、昨年の2月のこと。あれ、アルトアって弥生の子会社なんじゃないの? 確かにそうなのですが、私が構想し、自ら立ち上げた、そして私自身も少なからぬ出資をしていることもあり、私が起業した会社だと思っています(そういった意味では、グループ内起業と言えるのかもしれません)。

私はかつて自分の経営コンサルティング会社を起業していますが、当時は31歳。若手と言っても怒られることはないでしょう。2回目となる今回は、48歳。もはや若手とは言えず、いわば中年起業家。一方で、昨今では若い方による起業が多く、気後れしないといえば嘘になります(笑)。むろん、数年前までは日本は起業する人が少ないと言われていた中で、これだけ若手によるベンチャーが増えてきたのは素晴らしいことだと思います(ただ、いわゆるITベンチャーは盛り上がっている一方で、日本全体としての開業率はまだ高いとは言えないのが実態です)。

中年起業家のメリットは、やはりこれまでの経験かと思います。酸いも甘いも、苦しいも楽しいも経験してきていること。ちょっとやそっとのことでは挫けません。また、ITや金融やコンサルという業界での経験も活かされています。これも経験の一部とも言えると思いますが、これまでに培ってきた人脈もやはり大きな武器となります。

一方で、これはデメリットだな、と感じるのは、周りの人を誘いにくいこと。ベンチャーがチームを作る上で、まずは友人・知人・同期からというのはよくあるパターンだと思いますが、中年起業家の場合、友人・知人・同期も自然と中年が多くなります。皆それぞれのキャリアを(さらに言えば家庭も)築いていますから、くすぶっていないで、一緒に夢を追いかけようとはなかなか言い難いものがあります。

そんな中で最近勇気付けられたのが、"Middle-aged entrepreneurs are more successful than young ones. Here's why"(「中年起業家は若手起業家より成功しやすい、その理由」)という記事。National Bureau of Economic Research(全米経済研究所)という民間の研究機関が行った研究がもとになっているようですが、若い方が起業で成功しやすいという一般的な見方に反し、統計的な分析では、むしろ成功確率が高いのは中年である、とのこと。あくまでアメリカでのデータですが、トップ0.1%に入る成長を遂げているベンチャーの創業者の平均年齢は45.0歳なのだそうです。

起業家が成功する確率までは、25歳までは低いものの、25歳を超えると上昇し、25歳から35歳まではほぼ同じレベル。35歳を超えると、成功確率はグンと上がり、46歳でさらに上昇し、以降は60歳まで安定的に推移するそうです。年齢とともに成功確率が上昇する要因については、やはり経験、特に業界経験が寄与しているとしています。

あくまでも米国における調査結果なので、それが日本にどこまであてはまるのかはわかりません。また、実際には業界によっても傾向は変わるのではないかと思います(ITのように流れの早い業界では若さが有利に働くでしょう)。それでも、多少年をとったからといって、引け目を感じたり、あきらめる必要はないと言えるのではないでしょうか。

少なくとも、この研究結果を基にする限り、私はバッチリ。それぐらいの能天気な楽観主義でこの先も2回目の起業を楽しみたいと思っています(笑)。
posted by 岡本浩一郎 at 16:20 | TrackBack(0) | 弥生

2018年08月08日

流行りと流れ

夏の巡業(カンファレンス/研修キャラバン/個別訪問)で多くの会計事務所の方とお話しする中で印象的だったのが、「クラウド」というキーワードが数年前ほど出てこなかったこと。数年前は、業界をあげてクラウド・ブーム。今すぐにクラウドに取り組まないと、淘汰される、あるいはそこまでいかなくても、出遅れるといった雰囲気がありました。今から振り返ると、ブーム(流行り)でしたし、弥生自身も含めて、結構煽られていたように思います。

誤解のないように補足すると、クラウドというキーワードがそれほど出てこなくなった = クラウドが使われない、ということではありません。むしろ効果がはっきりしたところでは、クラウドは定着したと言えます。

当たり前の話ですが、クラウドは手段であって、目的ではありません。ですから、手段として効果が生みやすい部分ではクラウドが定着し、逆に効果を生みにくい部分ではクラウドでなくてもいいよね、という冷静な判断がされるようになったということかと思います。わかりやすいところでは、会計事務所自身が使う会計ソフトとしては、操作性の観点からクラウドは適さず、使い慣れた弥生会計 AE(会計事務所向けのデスクトップ版弥生会計)という判断が当たり前のようにされるようになりました。

一方で、だからクラウドを使わないということではなく、デスクトップ版弥生会計をご利用の顧問先とは、弥生が提供するクラウドストレージ、弥生ドライブを利用してデータを共有することがごくごく一般的になってきました。また、顧問先がクラウド版弥生会計(弥生会計 オンライン)を利用されている場合には、弥生会計 AEとのデータ共有機能を活用するということがやはり当たり前になってきました。

普及率としてはまだまだこれからですが、これもクラウドならではの機能である自動仕訳(スマート取引取込)も、デスクトップ版弥生会計でも、もちろん弥生会計 オンラインでも普通に使われるようになってきました。

クラウドがあまりキーワードにならない中で、逆にホットなトピックになっていたのが、「人手不足」。人手不足に関しては、東京や大阪では数年前からそれなりに話題になっていましたが、当時は少し地方に行けば、いや、あまり人手不足と感じることはない、とかなり温度差がありました。それに対して、今年は、どこに行っても、どなたとお話ししても、必ず話題になるのが人手不足。

やっかいなのが、人手不足は、残念ながら「流行り」ではなく、避けることのできない「流れ」だということ。みずほ総研の調査レポート(pdf)によれば、2016年時点で日本の労働力人口は6,648万人。この数は年々着実に減少し、約15年後となる2030年には6,000万人を切る(5,880万人)と予測されています。さらにその15年後の2045年には5,000万人を切り(4,942万人)、その15年後の2060年には4,000万人に近付く(4,157万人)とされています。

労働力が着実に減少していくこれからの時代においては、労働力を無駄にはできません。機械ができることは機械に任せ、人間だからできることに注力していかない限り、社会が成立しなくなります。だからこそ、会計業務においても、3.0の世界、自動化の世界に進化せざるを得ない。それは必然の「流れ」です。将来を考える上で向き合うべきは、クラウドという「流行り」ではなく、人口の動態という「流れ」。その事実に多くの会計事務所が気が付き始めています。
posted by 岡本浩一郎 at 20:56 | TrackBack(0) | 弥生

2018年08月06日

STORY 07~10

昨年に弥生シリーズ 30周年を記念した特別サイトを公開しましたが、その後も地道にコンテンツを更新しています。公開からもうそろそろ一年経つことになり、さすがに30周年という看板を降ろさないといけないかもしれません(笑、厳密には、初めて「弥生」の名前を冠した製品を発売したのが、1987年10月ですから、今年の9月? 10月?までは何とか30周年という看板もありかと)。弥生のウェブサイトをよく観察している人にはわかるかもしれませんが、実はこの特別サイトのアドレス(URL)がひっそりと変わっています。これは30周年が終わっても、このコンテンツは残そうという布石なのでしょうか(笑)。

私としても、特にこれはキチンと残したい、できれば今後も継続したいと個人的に思っているのが、YAYOI USER'S CHALLENGE STORY。事業を立上げ/引き継ぎ、独自の製品やサービスを生み出そうとチャレンジしつづける人のストーリーです。

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以前ご紹介したタイミングから、4つのCHALLENGE STORYが追加され、現在は、合計10本のストーリーとなっています。一つ一つが読み応えがありますし、事実ならではのチャレンジ満載のストーリーには本当にワクワクとさせられます。

前回以降追加したのは、株式会社ビッグバイオ 代表取締役 阪本惠子さんの「小さな微生物で世界は大きく変えられる」、株式会社 幸呼来(さっこら)Japan 代表取締役 石頭 悦さんの「東北の伝統工芸『裂き織』に、いろんな夢を織り込む」、株式会社 鯖や 代表取締役 右田 孝宣さんの「鯖に光をあて、日本のビジネスの常識を変える」、株式会社グランキュイジーヌ 取締役会長 竹田 敬介さんの「まだ誰も作ったことのないラーメンを、生み出していく」の4つのストーリー。

微生物というまったく知見のない領域で、コツコツと研究を続け、専門家の「ありえない」を覆した阪本さん。地元に埋もれていた「裂き織」という伝統文化を再発見し、障がいを持たれている人の力を得て、日本だけでなく、世界に発信する石頭さん。魚嫌いだったのに、紆余曲折を経て、「こんな真っ直ぐな情熱を持った企業は、絶対潰すわけにはいかない」と言われるまでに鯖への熱い思いを抱くようになった右田さん、松下幸之助さんの「失敗は失敗のままでやめるから失敗になる。成功するまでやり続ければ、それは失敗ではなくなる」の言葉通り、失敗にめげることなく挑戦を続けてきた竹田さん。

経営者が10人いれば、想いや情熱という共通点はありつつも、10通りのCHALLENGE STORYがあるのだということを実感します。自社コンテンツなので、ひいき目で見ているのでしょうが、書籍化してより多くの方に見て頂くべきコンテンツだと思いますが、どうでしょう > 担当チームの皆さん。
posted by 岡本浩一郎 at 19:09 | TrackBack(0) | 弥生

2018年08月03日

夏の巡業、一段落

7月は巡業ということで、名古屋、広島、福岡のPAPカンファレンスに参加(東京/大阪は6月に開催済み)しました。また、全国16会場で開催している研修キャラバンにも何回か参加。意図したわけではないのですが、北は札幌、南は鹿児島となり、まさに日本縦断の旅となりました。この他、金沢にも行きましたが、全国どこに行っても暑い! 札幌は東京よりは気温は低かった(30度ぐらい)のですが、札幌に期待する「あー快適」とまではならず(夕方以降はさすがに涼しかったですが)。

一方で、本ブログでもお話ししたように広島では歴史的な豪雨をわが身をもって体験し、命からがら(誇張なし)脱出することになったり、週末だったので出張に影響はありませんでしたが、台風がこれまでに見たことのないコースで日本を横断(しかも私の心のふるさとの湯河原の海岸に甚大な影響を与えたり)と、色々な意味で記憶に残る7月でした。

この暑さもあり、体力的には正直かなり厳しかったのは事実で、道中では「無茶なスケジュールを組み過ぎた」と少々後悔モードでした。それでも何とか体調を崩すこともなく、事故にあうこともなく巡業を乗り切ることができました。何よりも、PAPカンファレンス、研修キャラバン、さらにその前後での会計事務所の個別訪問と、実に多くの会計事務所の皆さまとお話しできたことが大きな収穫となりました。

会計業務は今、2.0の世界(半自動化の世界)から、3.0の世界(自動化の世界)への大きな変革期の入り口に立っていると考えています。だからこそ、多くの会計事務所の方とお話しし、弥生が見ている世界をお伝えすると同時に、お客さま(事業者)と直接接している会計事務所の皆さまからのフィードバックを頂くことがとても重要だと考えています。

実際に様々な会計事務所の方とお話しする中で、3.0の世界に歩みだしている会計事務所が着実に増えてきていることを実感します。一方で、3.0の世界はまだ入口であり、現実問題として、メリットを出しやすいケースと出しにくいケースが存在するのも事実です。どういったケースでメリットを出しやすく、業務として定着しやすいのか、逆にどんなケースではまだ課題があるのか、フィードバックを頂くことで、弥生としての今後の製品/サービス開発の方向性のヒントを頂くことができています。

今日は大阪での研修キャラバン開催。長かった夏巡業もこれで一段落です。もっとも8月の後半には広島でのキャラバンにも参加を予定していますし、もちろんその先も、会計事務所の皆さまとのコミュニケーションの機会を積極的に作っていきたいと考えています。
posted by 岡本浩一郎 at 18:01 | TrackBack(0) | 弥生

2018年08月01日

代表者保証

アルトアの特長の一つが、融資に際し、保証人や担保が不要であること。アルトアの立上げに際しては、弥生としてお客さまである小規模事業者の融資に関するニーズの調査を行っていますが、機動的に融資を活用する上で、保証や担保を求められることが大きなネックとなっていることは明らかでした。

保証というのは、融資を受けたAさんが返済できない場合に、保証人であるBさんがかわりに返済を求められるという仕組み。法人に対する融資の場合には、法人の代表者(一般的には社長)が保証をする、つまり法人が返済できない場合には、代表者個人が返済を求められることが一般的です。ただ、万が一返済できなかった場合、個人の人生にも大きな影響を与えうることから、そもそも融資を受けることをためらう原因にもなっています。同時に、貸し手である金融機関が、法人としての返済能力をキチンと見極めなくても済んでしまう、下手をすれば、法人がダメでも個人として返してもらえばいいから、といういわばモラルハザードを起こしかねない危険性があります。

そういった観点から、約5年前に「経営者保証に関するガイドライン」が策定され、金融機関は融資に当たって、経営者保証に安直に頼らないことが求められるようになっています。具体的には、1)法人と経営者との関係の明確な区分・分離、2)財務基盤の強化、3)財務状況の正確な把握、適時適切な情報開示等による経営の透明性確保といった一定の条件の下で、金融機関は経営者保証を求めない融資を行う努力が求められています。

このガイドラインには強制力はありませんが、金融庁は、担保・保証に過度に依存しない融資の促進の取組みの一つとして、ガイドラインが融資慣行として浸透・定着するよう、金融機関に対してガイドラインの活用を促してきています。その活動の一環として、6月末には、民間金融機関におけるガイドラインの活用実績を取りまとめ公表しています。この発表資料によると、平成29年度の民間金融機関による新規融資に占める経営者保証に依存しない融資の割合は16.3%。前年度の14.3%よりは改善していますが、まだまだ低い割合です。

確かに、保証があるからこそ融資ができる(保証なしではリスクが高すぎる)というケースがあるのも事実ですし、また、保証がなければ今度は借り手側のモラルハザード(法人を潰してしまえば、それ以上追いかけられることはない)を起こす危険性も否定はできません。そういった観点では、アルトアとしても、あくまでもオプションとして、保証を活用することも否定しません。例えば、代表者保証があるのであれば、貸し手としてリスクを低減できる分、より低い金利で融資するなど。

ただ、それはあくまでもオプション。アルトアの強みは、先週末日経新聞にご紹介頂いたように、データとそれを分析するためのAI技術。チャレンジであることは事実ですが、安直に保証や担保に頼るのではなく、データ×AI技術によって、お客さまの信用力を見極める力を磨いていきたいと考えています。
posted by 岡本浩一郎 at 22:11 | TrackBack(0) | アルトア

2018年07月30日

アルトアのスピード感

昨日日曜日の日本経済新聞の1面トップ記事「データが導く金融大競争」でアルトアを取り上げて頂きました。「弥生が17年から始めた新型融資」とありますが、正確には弥生の子会社であるアルトアによる融資です。この記事で取り上げられたオカピートさんには、アルトアのウェブサイトでも事例として登場頂いています。日経から事例を知りたいというリクエストがあり、ご紹介したのですが、まさか一面トップで登場することになるとは、ビックリです。

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この記事は、データを活用することによって、融資の利便性を向上させると同時に、ハードルを下げるというアルトアの目指す世界を紹介して頂いたという意味で、とても有難いと思っています。ただ、一点だけ、オカピートさんの事例で、「2週間ほどで200万円が入金された」とあるのですが、これはあまり正確ではありません。

正確には、オカピートさんからお申し込みを頂いたのが、2017年12月27日(水)の夕方。その日のうちに、アルトアから融資可能という審査結果をお知らせしています。翌日には、本人確認の手続きを行って頂いたのですが、現行の法令では、本人確認の手続きの一部に郵送の手続きが必要となるため、これを経て、本人確認の手続きが完了し、融資の準備が完了したのが、2017年12月30日(土)。ただし、既に年末年始に入ってしまっていたため、実際に融資が実行されたのが、年明けの2018年1月4日(木)ということになります。つまりカレンダーベースでは、約1週間。ただ、これは年末年始をはさんだという特殊事情があり、営業日ベースでは、中2日(お申込から融資実行で言えば4営業日)ということになります。

なお念のためですが、上記の日付を公開することはオカピートさんの許可を頂いています。こうやって振り返ってみると、年末ギリギリにお申込みを頂き、残念ながら年内は間に合わなかったものの、年始初日に融資できているわけですから、何気に凄いですよね(自画自賛です、はい)。

アルトアの融資も既に結構な数の件数になっていますが、お客さまにお伺いすると、やはりこのスピード感に驚かれる方が多いですね。実際にどれだけの期間がかかるのかは、本人確認の手続きが郵送も含めスムーズに進むかどうかで変動してきますが、従来の事業性融資の常識から言えば、圧倒的に早いことは間違いありません。2回目以降は、原則として本人確認の手続きが不要になりますから、即日融資も可能です。

現状でネックになっている本人確認の手続きですが、実は現在、オンラインだけで完結できるよう犯罪収益移転防止法(一般に犯収法)の施行規則を改正する方向で検討が進んでいます。早ければ年内にもオンライン完結型が認められるようになり、そうなればアルトアも「いつでも即日融資」に一歩近付くことになります。
posted by 岡本浩一郎 at 17:18 | TrackBack(0) | アルトア

2018年07月26日

キャッシュレス化の光と影

キャッシュレス化を推進すべき(ただし課題は大きい)と書いてきましたが、では、私自身のキャッシュレス度はどうかというと、うーん、キャッシュレス化率は50%ぐらいでしょうか。ただ、一定額以上の支払いはほぼキャッシュレス(クレジットカード)なので、金額ベースで言えばキャッシュレス化率80%ぐらいにはなっているのではないかと思います。

そんな私ですが、先日思わぬことで一日間完全キャッシュレス生活を強いられることになりました。急用で出かけることになったのですが、急用過ぎたこともあって、財布を忘れるという失態(念のためですが、普段はそういったことはありません、笑)。持っているのはiPhoneのみ。気が付いたのは家を出て30分後で既に時間的に引き返せない状態。えーい、何とかなるか、と思ってそのまま出かけました。結論的に言えば、(ほぼ)何とかなりました。その気になれば、キャッシュレスで何とかなるものです。むろん、ちゃんとSuicaが使えるよね、と事前に確認したり、普段よりは少し気を使いましたが。

ただ、実は一つだけキャッシュレスでは何ともならないものがありました。冠婚葬祭に関わるものは、キャッシュレスとはいきません(人から借りるはめになりました)。少し前の日経新聞で「キャッシュレス先進国スウェーデンの光と影」という記事がありましたが、記事にもある通り、キャッシュレス化の影の部分にどう対処するかは大きな課題だと感じます。記事中に「長男のクリスマスのお祝いに日本のお年玉のように現金を渡そうと銀行の窓口に現金を引き出しにいったら、現金が不足していて1クローナ紙幣100枚しかおろすことができなかった。日本円にすると約1,300円」とありますが、銀行にそれだけの現金しかないというのは驚きです。既にキャッシュレス化が進んだスウェーデンとまだまだこれからの日本では状況は異なりますが、「やはり現金でないと」という用途があることは事実かと思います。

結果的に誰かを決済のネットワークから排除することにならないか、というのも、キャッシュレス化で慎重に考えるべきポイントです。上述の記事でも、やはりスウェーデンで「90歳になる祖母も困った経験をした。最近、自分の洋服を買おうとしたら、お店で受け付けてもらえず買い物ができなかったのだ」とありますが、これは当然日本でも起こりうる話です。ある意味近い話としては、最近は中国でキャッシュレス化が進んでいるために、中国を訪問する外国人にはむしろ不便になっているということを聞きます。

あまり話題にはなりませんが、障碍者の方にとってキャッシュレスがどのようなインパクトを持つのかも慎重に考えるべきかと思います。コインは大きさと形で識別がつくようになっていますし、あまり意識することはありませんが、紙幣にも識別マークがついています。

もちろん、今のままがいいと言うつもりはありません。そもそも今のように汎用的に利用できる紙幣が日本で普及したのはせいぜい150年前のこと。今の常識は、ここ150年ほどの常識に過ぎません。お年玉やお祝儀の常識も時代と共に変わっていくでしょう。とはいえ、キャッシュレス化の「光」だけではなく、「影」の部分もキチンと認識し、現実的な対処を考えていくべきだと思います。
posted by 岡本浩一郎 at 18:16 | TrackBack(0) | ビジネス

2018年07月24日

キャッシュレス化の方策

前回は、キャッシュレス化の意義はある一方で、実際に推進する上ではカベが存在するとお話ししました。キャッシュレス支払いができるお店でも現金を好むという消費者側のカベと、キャッシュレス支払いを受けられる設備はあるお店でも、実際には現金での支払いを好む店舗側のカベ。なおかつ、これらのカベは一方を崩そうとすると、他方のカベをさらに高くする可能性があると。

例えば、消費者側のインセンティブを増やそうとポイントによる還元を増せば、店舗側の手数料を増やすことにつながり、結果的に、店舗側のカベ(ディスインセンティブ)を増やしかねないというジレンマがある訳です。

このジレンマを解消する、もっと言えば、社会的な仕組みを大転換するためには、やはり国の役割が大きいのではないかと考えています。ヒントは韓国にあります。実は韓国は、世界でも有数の(というよりトップの)キャッシュレス先進国。少し前にもお話ししたように、2015年時点での日本のキャッシュレス決済比率が18.4%なのに対し、韓国は実に89.1%です。キャッシュレス・ビジョンでも解説されていますが、韓国では1999年から2002年というごく短期間のうちに、クレジットカード発行枚数を2.7倍に、そしてクレジットカード利用金額を6.9倍に急拡大させることに成功しました。

その方策は是非キャッシュレス・ビジョン(P14)をご覧いただきたいのですが、個人的に注目しているのが、年間クレジットカード利用額の20%の所得控除を認めるという制度(ただし、上限あり)。何と、クレジットカードで支払うとそのうちの一定額が税金を計算する上での控除対象となる(=節税になる)のです。つまりクレジットカードで支払うことに対して、店舗側に代わって、国がインセンティブを提供している訳です。これであれば、ジレンマに陥らないですよね。

とはいえ、それでは国にとってのメリットは何なのか? 国にとってのメリットがなければ、インセンティブを出す意味がありません。色々な解釈が成り立つと思いますが、この韓国のクレジットカード支払い推進には、1) 消費の活性化、2)脱税の防止という二つの目的があったと言われています。この時期は韓国では通貨危機からの脱出を図っている時期であり、消費を活性化させるためには手段を問わずという状況だったのかもしれません(ただ、この反面、2000年以降家計負債が増え続けていることが韓国経済のリスクとも言われています)。

興味深いのが、脱税の防止という目的です。上述の所得控除を認めるために、クレジットカードで支払いをする度に、それがデータとして国に送信されるという仕組みになっています。つまり、消費者にクレジットカード支払いのインセンティブを提供することによって、一定の税収減は許容しつつ、脱税を防止することによって、全体として税収を増加させようということです。

ちなみに、韓国では2005年には現金領収書という制度が導入され、現金での支払いの際にも売上データは国に送信されるようになっています(この場合も消費者には所得控除というインセンティブがあります)。現金支払いではレバレッジという消費の活性化効果はありませんから、明らかに脱税の防止が目的になっています。

弥生は事業者の味方ですから、単純に事業者の税負担が増えるだけの制度には賛成できませんが、そもそもの話として課税は公正であるべきです。理想的に言えば、売上がデータとして捕捉されることによって公正な課税がなされ、同時に徴税コストが下がるのであれば、それを税額の控除や、もっと言えば税率の引き下げのような形で事業者に還元されるべきだと考えています。

しかし、残念ながら日本の税制は建て増しに終始しがち。ですから、この種の制度が短期間で導入されることは考えにくいでしょう。ただ、人口も減少し、より効率的な社会運営が求められる中で、単純にキャッシュレス決済比率を多少向上させるという発想ではなく、社会的な仕組みを大きく作りかえるぐらいの覚悟が必要なのではないでしょうか。
posted by 岡本浩一郎 at 16:47 | TrackBack(0) | ビジネス

2018年07月20日

キャッシュレス化のカベ

APIの話とキャッシュレスの話を行ったり来たりしていますが、今日はキャッシュレスについて。前回は、キャッシュレス化の意義についてお話ししました。キャッシュレス化の意義の一つは社会的なコストを下げること。そしてもう一つの大きな柱は、キャッシュレス化によって、データを収集し、新たな価値を生み出すこと。

だからこそ、キャッシュレス化を推進すべき。この方向性自体には私は全く異論ありません。ただ、その方法論となると、なかなか一筋縄ではいかないと考えています。よく言われることとして、日本ではクレジットカード(や電子マネー等)が使えないお店が多い、だからキャッシュレス化が進まない。これを打破するために、キャッシュレス支払いを処理する端末(CAT端末など)の導入費用を補助し、お店のクレジットカード等の受け入れを促すべき、といった議論があります。

このロジック自体、必ずしも間違ってはいないと思いますが、それだけで全てが解決するほど単純ではありません。

確かにカード等を使えない店舗の存在がキャッシュレス化へのハードルとなっているのは事実ですが、一方、カード等を使える店舗でも現金を選ぶお客さまが相当に多いという現実を無視するわけにはいきません。代表例が百貨店ですが、一般的に百貨店はクレジットカード支払いができるようになっていますし、種類にはよりますが、電子マネーを利用できることも珍しくはありません。つまり、キャッシュレス・レディー。にもかかわらず、現金で支払う方が多い。その理由は様々でしょう。現金に対する信頼か、拘りか、あるいは、キャッシュレスに対する不安なのか抵抗感なのか、はたまた、単純にこれまでの習慣を変えたくないのか。

これらの消費者側のカベに向き合わないことには、キャッシュレス化が大きく進むことはないでしょう。

同時に、店舗側のカベにも向き合う必要があります。店舗側のカベは、クレジットカード支払いを受けられる店舗であっても、現実には現金払いを好むという事実。よくありますよね。ランチは現金支払いのみとか、このお得なプランは現金払いに限るとか。店舗側の事情もよくわかります。クレジットカードの取扱手数料は一般的に3%前後と言われますが、特に利幅の薄い業態において、決して無視できないコストです。また、資金繰りの面でも現金で払ってもらった方が有利。こういった事情がある中で、単純にCAT端末の導入費用の補助を行っても、CAT端末自体は導入されるかもしれませんが、実際のキャッシュレス支払いは進みません。

今後キャッシュレス化を推進する上では、こういったカベに対する打ち手を積み重ねる必要があります。難しいのは、消費者側のカベに対する打ち手が、結果的に店舗側のカベを高くすることにつながりかねないということ。

消費者側のカベを崩すための一つの打ち手として、ポイントのようなインセンティブを強化することが考えられます。クレジットカード払いであれば、x%分のポイントが溜まるといったような。1%でもチリが積もれば山となるですが、これが例えば5%や10%になれば、クレジットカード払いを選ぶ消費者は確実に増えるでしょう。

しかし、です。これらポイントは何もないところから生まれる訳ではありません。消費者にインセンティブを提供するためには、当然、その原資が必要。そしてその原資は通常、店舗側にかかる手数料から賄われます。つまり、消費者側のインセンティブを増やそうとすれば、店舗側の手数料を増やすことによって、店舗側のカベ(ディスインセンティブ)を増やしかねないというジレンマがある訳です。

逆に店舗側のカベを崩すために手数料を下げようとすれば、当然消費者に提供するインセンティブを削る必要があります。これもまたジレンマ。

キャッシュレス化の意義は確かにありますし、だからこそキャッシュレス化は推進すべき。実際問題として、何もしなかったとしても、キャッシュレス支払の割合はじわじわと増えていくでしょう。ただ、短い時間軸の中でキャッシュレス化を急速に進めようとすると、正直なかなか難しいと感じています。

もっとも、あくまでも個人的に、ですが、策はあると思っています。このジレンマを解消するためには、国の役割が大きいと思っています。CAT端末の導入補助といった小手先ではなく、もっと大きな仕組みが必要だと考えています。その具体策についてはまた改めて。
posted by 岡本浩一郎 at 18:04 | TrackBack(0) | ビジネス

2018年07月17日

JCB×弥生

7月の巡業も中盤戦。巡業に加え、週末のマザー牧場でのキャンプ(昨年に引き続いて二回目)の疲れがじわじわときていますが、今週も巡業は続きます。今週は前半は鹿児島、一旦東京に戻って後半は札幌とまさに日本縦断です。暑さにめげないように頑張りたいと思います。

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機内より桜島。昨日噴火したそうで、市内には灰が舞っています。

先週はキャッシュレス・ビジョンについてお話ししましたが、これはお話しした通り、もともとは「クレジットカードデータ利用に係るAPI連携に関する検討会」に委員として参加したことがかかわるきっかけです。キャッシュレスの推進については、今後もう少し深堀ってみたいと思いますが、今日はきっかけとなったクレジットカード会社とのAPI連携についてのお話です。

本日、7/17より、弥生はJCBとのAPI連携を開始しました。今回のAPI連携により、JCBカードをご利用かつ弥生会計(デスクトップでもクラウドでも)をご利用のお客さまは、JCBのカード明細情報を安全かつ安定的に弥生会計に取り込み、自動で会計処理を行うことが可能となります。個人向けのカードはもちろん、法人カードも対象です。

金融機関とのAPI連携は、3月の住信SBIネット銀行に続いて2社目となります。先日お話ししたオープンAPI推進研究会は、6月の「API利用契約の条文例 (中間的な整理(案))」に引き続き、今月頭に「銀行法に基づくAPI利用契約の条文例(2018年7月暫定版)」を公表しました。暫定版という名称ですが、これまでの議論を全て反映しており、議論としては一旦これで収束です。ようやく多くの金融機関と標準的な利用契約案をベースに議論できる状態になったということで、弥生としても、この条文例をもとに、今後多くの銀行とのAPI連携を、できるだけ早いタイミングで進めていきたいと考えています。

なお、今回のJCBとのAPI連携を記念して、「JCB法人カード」をお持ちのお客さまを対象に「弥生会計 オンライン(セルフプラン or ベーシックプラン)」を初年度無料でご提供する「JCB×弥生 API連携開始特別キャンペーン」を行います。弥生のお客さまがJCBカードを、JCBのお客さまが弥生をご活用頂く良い機会になることを願っています。
posted by 岡本浩一郎 at 18:15 | TrackBack(0) | 弥生