2020年09月16日

デジタル化は一年にしてならず

本日臨時国会が招集され、菅自民党総裁が総理大臣に選出されました。菅総理の看板政策と言えば、デジタル庁の設立。日本におけるデジタル化の遅れが新コロナウイルス禍で如実に示されましたが、私としてもデジタル庁には大いに期待しています。

一方で、デジタル化は一年にしてならずとも思っています。新コロナウイルス禍で明らかになった課題を踏まえ、この先一年で一気にデジタル化を進めるという動きがありますが、あえて誤解を招きかねない言い方をすれば、私はこれには反対です。正確に言えば、一年でできることは紙の電子化であって、業務プロセスそのものを見直すデジタル化にはならない、と考えています。今の日本に本当に必要なのは、業務プロセスそのものを見直すデジタル化です。一年でできることをさっさとやることは構いませんが、紙の電子化で仕事をした気になるのではなく、5年、下手をすれば10年かかるかもしれない抜本的な見直しにこそしっかりと取り組むべきだと考えています。

昨年立ち上げた社会的システム・デジタル化研究会がこの6月に発表した「社会的システムのデジタル化による再構築に向けた提言」では、短期的に取り組むべき領域として、今まさに業務プロセスの構築が進もうとしている領域、具体的には、2023年10月に予定されているインボイス(適格請求書等)制度導入を踏まえた電子インボイスの仕組みの確立であるとしています。一方で、確定申告制度、年末調整制度、社会保険の各種制度等、既に長年にわたって確立された業務プロセスをデジタルを前提として再構築することは、多大な労力と、結果として時間はかかるものの、それだけに非常に大きな社会的メリットを生むことが期待されるとしています。

電子インボイスの仕組みの構築は、短期的な取り組みとはいえ、今から3年がかりの仕事です。標準化されておらず、それが故に使うメリットが見えない仕組みを形の上だけ作るのは一年でもできるかもしれません。しかし、今はまだ何もない中で、日本のあらゆる事業者、大企業から個人事業主までが利用できる標準化された仕組みを作るとなると、これだけの時間はかかります(実際にはシステムとしては2022年秋から2023年春にリリースし、インボイス制度が始まる2023年10月には業務として定着した状態を目指したいと考えています)。以前イタリアの電子インボイス制度についてお話ししましたが、イタリアでは7年かかったことを日本では何とか3年で実現しようとしている訳です。

中長期的な取り組みである確定申告や年末調整という制度については、戦後から脈々と続く良くも悪くも定着した制度だけに、どうあるべきかには丁寧な議論が必要だと思っていますし、実際にデジタルを前提とした新しい仕組みを稼働させる上でも、皆がしっかりと対応できるように、周到な準備が必要だと思っています。5年、下手をしたら10年かかるでしょう。

それだけの時間をかけるからこそ、抜本的な見直しができる。デジタル庁という(私の希望でいえば)行政だけでなく、日本社会全体のデジタル化を牽引する組織には、一年でのやっつけ仕事ではなく、5年、10年という時間軸で日本の社会をデジタルを前提として作り替え、圧倒的に効率的な(もちろん大事なのは、それによって皆が幸せになる)社会を実現してほしいと思っています。もちろん、社会的システム・デジタル化研究会としても、電子インボイス推進協議会としても、弥生としても、私個人としても、そのための協力は惜しまないつもりです。
posted by 岡本浩一郎 at 20:39 | TrackBack(0) | デジタル化

2020年09月14日

会議も新常態へ

弥生はこれまで拠点間の社内会議ではSONYのTV会議システムを活用してきました。多拠点を同時に接続し、資料を投影しながら会議ができ、会社運営では欠かせないツールとして活用してきました。

しかし、新型コロナウイルス禍でリモートワークが原則となると、そもそも会社に人はいませんし、TV会議システムはほとんど活用されなくなりました。その分、Web会議システムが大活躍。弥生ではこれまでもSkypeを一部利用していましたが、使い勝手の観点から結果的にはZoomに一本化することになりました。

その後、緊急事態宣言が解除され、少ないとは言えどもオフィスに人が出るようになると、ここで問題が発生します。Zoomは、皆がリモートでバラバラな場所にいる分には非常にいいのですが、一部の人がオフィス、残りがリモートの場合は運用が難しくなります。既に経験済みの方が多いと思いますが、一ヶ所で複数のマイクやスピーカーがあると、音がハウリングします(これはZoomに限らず、Web会議全般で発生することですが)。これは、一ヶ所で使用するマイク/スピーカーを一つに絞れば解消はされるのですが、そうすると今度はオフィスでの会話がリモートの人からするととても聞きにくくなります。例えば、オフィスに5人、リモートに20人といった場合、オフィスの5人が話している内容がリモートの20人に伝わりにくくなります。

7月頭にBorn Digital研究会を開催した際には、既存のTV会議システムとZoomを組み合わせることで何とかこの課題をクリアしたのですが、設定がなかなか大変で、気軽に使えるというものではありませんでした。そこで7月には新兵器を投入。弥生の優秀な情報システム部(笑)がEIPAの設立総会に向けて、新しいデバイスを用意してくれました。これが大当たりで、Zoomで参加した方によると、オフィスでのやり取りも問題なく聞き取れたとのこと。この会議は実はこのデバイスの試用も兼ねていたのですが、その場で正式導入を決定。8月中には、弥生全社での導入を済ませました。長く使ってきたTV会議システムもあっという間にさようなら。これも新常態(New Normal)への適応ということでしょうか(笑)。

2020091401.jpg

このデバイスはLogicoolが提供しているZoom Rooms用の会議室ソリューションというものです。Logicoolと言えば、マウスやキーボードが有名ですが(個人的にもマウスはLogicool派です)、こんなデバイスも作っていたんですね。そういえば、Logicoolと言えば、Webカメラでも有名ですから、その延長線上にあるのでしょう。この仕組みでは一つの会議室に最大7台のマイクを設置でき(当然マイク間で干渉が起きないように制御されています)、会議室全員をカバーすることが可能です。弥生では一番大きい会議室で4台のマイクを設置しましたが、これで十分。

先日はEIPAの3回目の会合を開きましたが、この際には弥生オフィスからの参加が私も含めて8名ほど。これに対してZoom参加者は130人前後(上の写真では参加者が133人となっています)。100人以上が参加してのオフィス+リモートの会議を無事に行うことができました。冷静に考えれば、これってすごいことです。仮にWeb会議でないとすると、100人以上が集まれる会場を探さなければなりません。この規模はさすがにヤヨイヒロバでも無理。今は特に密を避ける必要がありますから、下手をすれば定員で300名以上の会場を探すことになります。毎回この規模の会場を探すとなれば、機動的に会合を行うことは至難の業です。

新常態(New Normal)は決して妥協することではなく、むしろ効率を上げること。100人超の打合せが機動的にできることで、それを改めて実感しています。
posted by 岡本浩一郎 at 20:21 | TrackBack(0) | 弥生

2020年09月10日

目指すのは圧倒的な業務効率化

今日は電子インボイス推進協議会(EIPA)設立総会から数えて3回目の会合を開きました。日経1面で取り上げられた効果は大きく、EIPAに関心がある、EIPAに入会したいというお問合せを続々といただいています。設立総会は発起人となった10社(+オブザーバー)で開催したのですが、2回目の会合では正会員が32社にまで増え、そして今回の3回目では46社まで増えました。既に入会のご意向をいただいているものの、まだ手続きが完了していない会社も9社あり、今月中には日経記事に書かれた50社をあっさり超えそうです。

議論を始めて思うのは、このままではマズいと考えていた人が実に多かったのだなということ。呼びかけてすぐにこれだけ集まる訳ですから。皆さん問題意識は持ちつつも、日本全体として標準の仕組みを作るという壮大なプロジェクトに対し、どこから手をつければいいのか考えあぐねていた状態かと思います。

皆さんそれぞれ問題意識はお持ちだったということで、皆で情報を持ち寄り、最初からしっかりとした議論をすることができています。現段階では標準化の方向性はまだ固まっていませんが、どういった観点での標準化が必要なのかははっきりしてきました。正直やるべきことは膨大、それに対しインボイス制度(適格請求書等保存方式)の導入は2023年10月ということが法令で既に決まっており、時間の余裕はない状況ですが、下手に焦ることなく、まずは共通理解をしっかりと確立した上で、日本にとってのベストな選択を探っていきたいと考えています。

2020091001.png

個人的に嬉しかったのは、大手消費財メーカーからも入会を検討したいと声をかけていただいたこと。EIPAが目指すのは、単純にシステムを構築するだけではありません(それはそれで大変なのですが)。EIPAが目指すのは、誰でもが利用できる仕組みを構築することによって、事業者の方が適格請求書等保存方式という法令に則って業務を進められるようにすること、また同時に、デジタル化によって圧倒的な業務効率化を実現することです。そのためには、ベンダーだけが集まるのではなく、ユーザー企業側にも自分事として関わっていただき、実際に使える、そして業務を効率化できる仕組みを構築したいと思っています。
posted by 岡本浩一郎 at 19:30 | TrackBack(0) | デジタル化

2020年09月08日

これはこれであり

新型コロナウイルス禍により、6月に予定されていた会計事務所向けのカンファレンス(弥生PAPカンファレンス)を全てキャンセルしたと以前書きました。その後、一旦仕切り直しした上で、この9月から10月にかけて全国7会場での開催をしようと計画していました。正確に言えば、全国7会場での開催、かつうち2会場をライブ配信するという計画です。これであれば、会場で参加したい人は会場で、オンラインで参加したい人はオンラインで参加できるという一粒で二度美味しい計画…、のはずでした。

残念ながら結論から言えば、7月末をピークとした検査陽性者数の拡大を踏まえ、かなり悩みながらではありますが、8月半ばに、会場での開催を見送りとしました。もちろん、オンライン開催については予定通り、9/17(木)と10/5(月)の二回開催します。

今日はその前哨戦という訳ではないのですが、弥生PAPコミュニティと題し、今年の年末調整をテーマとしたウェブセミナーを開催しました。ウェブセミナーは、やろうと思えばPC1台とZoomさえあれば開催できますが、普通のPCのカメラやマイクでは映像や音声に難が出がち。数百人の方の貴重なお時間をいただく訳ですから、見て良かったと確実に思っていただけるよう、専門の配信設備/チームを準備しての配信としました。この方法だと登壇者は画面共有して、といったような操作から解放され、プレゼンテーションに専念できるので安心です。

2020090801.jpg

今回、私は冒頭で20分ほどお話ししたのですが、やってみての感想としては、これはこれでありだな、というもの。(残念ながら私のパートではないものの)道中で質問を受け付け、その場で回答するなど、ウェブならではの仕掛けを活用することもできました。何よりも、300人の方にご参加いただけるのは、ウェブならでは。もちろんこれまでのPAPカンファレンスでも、東京や大阪などの大会場では300人規模はありましたが、それには相当な準備が必要です(会場費は言うまでもなく)。今回も配信設備/チームの準備ということで、それなりに手間はかかっていますが、それでも会場開催よりは低コストでは済んでいるかと。そして参加する方としても、暑い中の移動もなく、気軽に見ていただけます。お申込みはあっても、実際には来られない/見られない方はこの種のイベントの定番の悩みですが、今回は、お申込み数に対して視聴者数が非常に高い割合になりました。やはり自分のオフィスで気軽に見れるというのがプラスに働いたのでしょうか。

今度のPAPカンファレンスでは、2回とも800名程度の参加を見込んでいます。合計で1,600名。800名の規模で実会場で開催しようとすると大変なことですが、ウェブセミナーであれば、ある意味100名でも500名でも800名でも変わりません。ただ、800名の方に、参加して良かったと思っていただけるかというとそれはまた別の話。今日のフィードバックも踏まえながら、来週に向けて最終準備を進めたいと思います(今日参加された方は是非アンケートにご回答いただければ幸いです)。

今回は、すべてオンライン開催となりましたが、会場開催の良さもあるのは事実。話し手としても、カメラに向かって話すよりは、うんうんと頷いてくれているお客さまに向かって話しかける方が気持ちがこもります。オンラインでの経験を積みつつ、将来的にはオンラインと実会場の良さを組み合わせられるようなイベントにしていきたいと考えています。
posted by 岡本浩一郎 at 17:26 | TrackBack(0) | 弥生

2020年09月04日

実はそれほど忙しくないのですが

最近ちょっと気になるのが、何かお願いされるときに「お忙しいところすいません」とよく言われること。いや、それほど忙しくはないのですが…。

今だからこそ白状しますが、緊急事態宣言が発令され、自宅勤務が始まったころは、むしろ暇と言っていいぐらいの時期もありました(笑)。現場の皆が仕事を進める中で、様々な相談が上がってくるわけですが、この時期は皆も自宅勤務になってどうやって業務を進めるかに試行錯誤中。結果的に仕事のペースが下がって、私にもあまり相談が上がってこない時期があったように思います。

さすがにそういった時期は過ぎ、今は平常のペース。開発メンバーを中心にリモートワーク主体が続いていますし、私自身も必要に応じてオフィスとリモートワークを使い分けていますが、相談事も含め、いつも通りのペースに戻っています。どうなることか心配もしましたが、会社としてしっかりと成果を出すことができています。新しい働き方を見出すことができましたから、むしろトータルではプラスと言えるかもしれません。唯一平常と異なるのは、ここ半年間は出張を控えているということ。

私は出張時には営業時間を有効活用するために、往復は早朝もしくは夜間にすることが多いのですが、それでも出張は何だかんだ時間を要します。その出張が途絶えている今は、その分負担が減り、個人的にはラクさせてもらって、こんなことでいいのかな、と感じている訳です(笑)。

「お忙しいところすいません」と言われると、いやいやそんなに忙しくないのに、とある種の罪悪感を感じたり(笑)。今月後半には半年以上振りの出張を予定していますが、まだ当面は様子を見ながらですから、しばらくはこういった日々が続くのかもしれません。

罪悪感を感じるとは言いましたが、本来社長は社内で一番暇なぐらいがいいと思っています。日々の業務を回す上では社長が何かする必要はありません。将来のことを考えるのが社長の仕事。いつも暇そうですね、と言われるぐらいが一番いいのかもしれません。

まあ、「お忙しいところすいません」というのは特段の意味はなく、枕詞的な決まり文句のような気もします。もう一つの可能性として、私が機嫌悪そうにしているとか、対応が悪いという可能性はありますね。恐る恐る声をかける時の「お忙しいところすいません」。もちろん人間ですので、気分のムラはありますが、とはいえ、そうだとすると反省しないといけませんね。

とりあえず、私は忙しくない、ということを明言しましたので、今後「お忙しいところすいません」がどう変わるか観察してみたいと思います(笑)。
posted by 岡本浩一郎 at 18:02 | TrackBack(0) | 弥生

2020年09月02日

中長期的に取り組むべき領域での方向性

確定申告や年末調整など、日本における現状の社会的システムの多くは、戦後に紙での処理を前提として構築されたものであり、今改めてデジタルを前提として業務プロセスの根底から見直すデジタル化(Digitalization)を進めることによって、社会全体としての効率を抜本的に向上させ、社会的コストの最小化を図るべきである、という問題意識から生まれた「社会的システムのデジタル化による再構築に向けた提言」。その内容について私見(というより想い)も交えてお話ししています。

これまでに、提言の背景と課題認識、および基本的な方向性についてお話ししました。それを踏まえ、短期的に取り組むべき領域として、今まさに業務プロセスの構築が進もうとしている領域、具体的には、2023年10月に予定されているインボイス(適格請求書等)制度導入を踏まえた電子インボイスの仕組みの確立とお話ししました

少し前にもお話ししましたが、中長期的に取り組むべき領域としては、確定申告制度、年末調整制度、社会保険の各種制度等が含まれます。これらは、既に長年にわたって確立された業務プロセスであり、その再構築は大きな社会的効果が見込まれる反面、社会的影響も甚大です。だからこそ見直すことによるメリットも大きいわけですが、どのように再構築を進めるかについては、今回の提言を踏まえつつ、引き続き十分な議論が必要だと考えています。このため、今回の提言では、短期的な取り組みである電子インボイスの話ほどには具体的に書き込んでいません。

方向性としては、「基本的な方向性」でお話しした通り、デジタルを前提として、業務プロセスをゼロから見直すべきだと考えています。この際には、1) 発生源でのデジタル化、2) 原始データのリアルタイムでの収集、3) 一貫したデジタルデータとしての取り扱い、4) 必要に応じた処理の主体の見直し、をどこまで徹底できるかがカギを握ります。

検討を進める上では、本ブログでもお話ししてきた諸外国のデジタル化の事例が参考になると考えています。例えば、イギリスのPAYE (Pay As Your Earn) RTI(Real Time Information)制度やオーストラリアのSTP(Single Touch Payroll)制度では、給与支払情報のデジタルかつリアルタイムでの収集を行っており、これによって、確定申告制度の簡易化が進んでいます 。日本でも、給与支払情報をデジタルかつリアルタイムで収集すれば、年末調整業務のあり方を大きく見直すことが可能だと考えています。年末調整に必要とされる保険料支払情報等の電子化も始まっており、これらのデータも収集すれば、年末調整業務をデジタルで完結させることも可能です。デジタルで完結させるのであれば、個々の事業者ではなく、行政で一元的に処理する方が、社会全体としてのコストは最小化されうるのではないでしょうか。

また、社会保険の各種手続きは、給与支払情報が主たる起点となるデータになっており、上述のように、給与支払情報をデジタルかつリアルタイムで収集すれば、多くの手続きを自動化することも可能ではないでしょうか。この際には、報酬月額を年間のうち3ヶ月のみに基づいて算定するなど、紙を前提としているが故の簡便化 を廃し、よりシンプルかつ合理的な制度として再構築することも可能だと考えています。年末調整業務と同様に、処理主体を見直す(例えば、事業者ではなく保険者による報酬月額の算出)ことも検討すべきだと考えています。

イギリスのMTD(Making Tax Digital)制度は、当初の構想に対し、まだまだ道半ばではありますが、所得税だけでなく、法人税や付加価値税までも対象に確定申告の必要性そのものをなくすことを目指す野心的な取り組みです。様々な取引情報をデジタルで収集することにより、納税者それぞれに用意されるDigital Tax Accountにおいて将来的に納付すべき税金の額が常時アップデートされることにより、改めての確定申告という手続きを不要とすることを目指しています。

もちろん、諸外国の制度を真似すればいいとは考えていません。諸外国の制度には、これまでの制度のあり方含め、それぞれの背景があるわけですから、それがそのまま日本に当てはまるとは限りません。諸外国の事例を参考にしつつ、日本のこれまでの制度を踏まえながら、日本に最適な仕組みを考えるべきです。

諸外国のデジタル化は、全体的には、正しい税務申告が自ずとなされるような仕組みを作り込むというTax Compliance by Designの考え方に基づいています。一方で、長年にわたって確立された業務プロセスをデジタルを前提として再構築することは、多大な労力が必要となるわけですから、行政にとってのメリットだけでは不十分です。行政だけでなく、民間にとっても明確なメリットがある、そして、行政/民間を通じて大幅な社会的コストの低減につながるような制度設計が必要だと考えています。
posted by 岡本浩一郎 at 18:39 | TrackBack(0) | デジタル化

2020年08月31日

本当にお疲れさまでした

先週金曜日に安倍総理が辞意を表明されました。体調不良説がくすぶっている中での記者会見ということで、ひょっとしたらとも思っていたのですが、まだ任期が一年あり、その間には晴れ舞台でもある東京オリンピック・パラリンピックもあり、また、安倍総理自身が掲げられていた課題も道半ばということもあり、このタイミングでというのは正直意外でした。このタイミングでの辞任の理由として、「体力が万全でないという苦痛の中、大切な政治判断を誤ること、結果を出せないことがあってはなりません。国民の皆様の負託に自信を持って応えられる状態でなくなった以上、総理大臣の地位にあり続けるべきではない」というのは、一国のリーダーとしての矜持を感じます。

色々な意見があるとは思いますが、少なくとも第二次政権となった以降のこの8年弱のリーダーシップを私は高く評価しています。一国のリーダーとして陣頭に立ち、判断をし、その結果に責任を取る。誰にとってもバラ色の解は存在しません。税金を上げるにせよ、下げるにせよ、あるいは変えないにせよ、それを良しとする人もいれば、それではダメだという人もいる。完璧解は存在しません。その中で判断をし、責任を取る。先だって本ブログでもお話しした10万円一律給付についても、絶対的な正解はなく、本当に難しい判断だと思います。それを約8年間。誰にでもできることではありません。

スケールは全くことなりますが、企業の経営者も、完璧解の存在しない世界において、陣頭に立ち、判断をし、その結果に責任を取らなければなりません。私も12年以上やってきて実感しますが、それは決して容易なことではありません。迷うこともあれば、泣きたくなることもある。これも私は比較にもなりませんが、日立製作所の川村さんの言う、「ザ・ラストマン」としての覚悟がなければ成り立ちません。今回、安倍総理は「ザ・ラストマン」として、この時点でバトンを渡すことが自分の責任であると判断されたのでしょう。

あえて言えば、目指す方向は正しくても、中途半端に終わってしまった、うやむやになってしまったことも多くあるのは残念です。個人的に私がこれは凄いと思ったのは、日本再興戦略において、開業率だけでなく、開業率・廃業率ともに10%以上を目指すとしたこと。開業率という誰が聞いてもいいよね、という甘い部分だけに取り組むのではなく、廃業率という一見すれば後ろ向き、しかし日本全体としては新陳代謝の観点で必要なものにも踏み込もうとしたことは、安倍総理ならではだと感じました。残念ながらこの目標は途中で消えてしまいましたし、全体としてのアベノミクスもやや尻切れトンボになってしまったように感じます。しかし、この種のことに文句だけ言ってもしょうがないのだと思います。できなかったことをあげつらうのではなく、できたことを素直に評価すべきだと思います。

新型コロナウイルス禍の克服もまだ見通しが立たない中で、次の総理大臣はどなたがなられるにしても、相当な難局だと思います。文句をつけることも容易でしょう。でも、文句だけ言っていても何も変わらない。この難局の中で、重要なのは私たちに何ができるかということ。今こそ、かつてJohn F. Kennedy大統領が就任演説で言ったことを噛みしめたいと思います。

Ask not what your country can do for you.  Ask what you can do for your country.
(国が皆さんのために何ができるのかを問うのではなく、皆さんが国のために何ができるのかを問うてほしい。)

安倍総理大臣、本当にお疲れさまでした。
posted by 岡本浩一郎 at 19:16 | TrackBack(0) | パーソナル

2020年08月27日

正しいデータに基づく判断

少し前に「With 新型コロナウイルス」というタイトルで、弥生内での新型コロナウイルス感染症拡大に対する対応レベルを8月頭に一部拠点でレベル2からレベル3に引き上げたこと、そして当該記事執筆時点(8/17)には再びレベル2への変更が視野に入っていることをお話ししました。

2020082701.png

引き続き拠点のある(および一般的にその通勤圏の)都道府県のデータを日次で追っていますが、8月10日過ぎまでは赤色の警報(人口10万人あたりの過去7日間の新規検査陽性者数が15以上)が点灯していますが、以降は徐々に減少傾向にあることが見て取れるかと思います。政府の分科会でも「7月末をピークに緩やかに減っている」と分析しているそうです。このデータに基づき、弥生では今週火曜日から全拠点を再びレベル2の対応としています。

日次でこのデータを追っていて気が付いたのですが、このデータは結構揺れるのです。このデータは前々日まで(今日8/27基準で言えば8/25)はこちらの東洋経済オンラインの特設サイト、前日は日本経済新聞の速報(今日基準で言えば、こちらの昨日の速報)を基にしています。しかし、翌日になると前日のデータが変わっていることが頻発しています。例えば、上記の表の8/26の数字は日本経済新聞の速報値ですが、これは翌日になると、東洋経済オンラインの数値に置き換わります。この際に結構数字がぶれます(正確に言えば、ぶれる都道府県とぶれない都道府県があります)。これは速報値から確定値に置き換わるものなので、ある程度ぶれることはやむを得ないと思います。

しかし、例えば上記の表の8/25の数字は東洋経済オンラインの数値なのですが、翌日に確認すると数字が置き換わっていることがかなりの頻度で発生しています。色々と調べてみると、東洋経済オンラインの元データは厚生労働省が毎日発表する数字なのですが、どうもこの元データが結構揺れているようです。表を見てみると気が付くと思いますが、8/18には、北海道でも、埼玉県でも、千葉県でも新規の検査陽性者が発生していません。ただ、前後の日の数字を見る限り、それはありえません。実は、元データである厚生労働省のデータは、日々の発生件数ではなく、累計での記載のため、何らかの理由で更新がかからないと、見た目上ゼロ件の日が生まれてしまうのです。8/18は集計なのか、発表なのか何らかの問題があったのではないかと思います。

実はちょうどこのタイミングで、レベル変更の判定をしようとしていたため、データが欠落していることにより判断が難しくなり閉口しました。ちなみに大阪府もこのデータ上は8/18がなしになっていますが、翌8/19には372件とドカンと増えています。これはどう見ても2日分の数字が1日で計上されてしまったのかと思います。また、数字の検証のために各都道府県の公表値とも比較していたのですが、福岡県の公表数値は、東洋経済オンラインの数字(元データは厚生労働省)と1日のずれがあります。例えば、上記の表で福岡県の8/25は51ですが、福岡県の公表数値ではこれは8/24の数値です。

なお、弥生におけるレベル変更の判断自体は7日間の累計の数字を採用していますので、こういったデータの揺らぎはある程度吸収することができています。それでも、もうちょっと何とかならないのか、と思います。新型コロナウイルス感染症は今まさに動いている事象であり、ビジネススクールのケースのように、揺らぎが全くない、カチッとしたデータにはなりません。ただ、新型コロナウイルス感染症との戦いで必要なのは、現状を定量的に、可能な限り正しく把握すること。その観点で言えば、データの定義や更新/集計のサイクルなどが統一されていないことは大きな課題だと感じています。

新型コロナウイルス感染症については色々な意味で備えが十分ではなかった。これは日本に限らず全世界がそうでしょう。備えがない中対応している訳ですから、こういった課題はやむを得ないのかもしれません。しかし、今後またいつ新しい疾病が発生するかもしれません。その時にまた今回のようになってはいけないのだと思います。(可能な限り)正しいデータが(可能な限り)タイムリーに集計され、それに基づいて(可能な限り)正しい判断ができるようにしていかなければならないのではないでしょうか。
posted by 岡本浩一郎 at 19:28 | TrackBack(0) | デジタル化

2020年08月25日

レジ袋有料化

デジタル化に関する比較的固い話が続いているので、たまには少し柔らかめの話でも。既に皆さまご承知のことと思いますが、この7月1日から、レジ袋の有料化が始まりました。

2020082501.jpg

レジ袋の有料化を受けて、私が持ち歩くようになったのが、こちら。Sea to Summitというアウトドア用品メーカーのUltra-Sil Nano Shopping Bagというエコバッグです。MyXというアウトドアショップ(おススメです)で見かけて購入しました。ご覧の通り非常に小さく、持ち歩くのが簡単。カジュアルな格好であれば、ポケットに入れておいても気になりません。重さは30gしかありません。

2020082502.jpg

一方で、これをひらくと、容量25リッターのエコバッグになります。結構色々なものを入れても大丈夫。メーカーによると20kgはいけるそうです。20kgと言えば、2リッターのペットボトル10本分ということになります。この種のバッグでは、ひらくのは簡単だけど畳むのが意外に手間というケースも多いのですが、このバッグの場合、畳んだ時に外側となる小袋に無造作に突っ込んでいくだけです。

ということで、結構お気に入りで持ち歩いているのですが、ちょっとした買い物の時(家からちょっとコンビニに行く時ですとか、会社でお昼にお惣菜を買いに行く時)には、しまった持ってこなかったということが多いです。これも慣れの問題でしょうか。

ところで、レジ袋の有料化は何のためなのでしょうか。プラスチックの使用量を削減するため? ゴミを減らすため?

経済産業省の広報資料(pdf)によると、「海洋プラスチックごみ問題、地球温暖化などの解決に向けた第一歩として、プラスチック製買物袋の有料化を通じて、マイバッグの持参など、消費者のライフスタイルの変革を促すことが目的です」とされています。またこちらのwebサイトでは、「普段何気なくもらっているレジ袋を有料化することで、それが本当に必要かを考えていただき、私たちのライフスタイルを見直すきっかけとすることを目的としています」ともされています。

これはなかなかに微妙な表現で、考えることや、ライフスタイルを変えることが目的だけれども、これによって海洋プラスチックごみ問題や地球温暖化が解消する一助になるとは言っていないのです。

私自身で言うと、これまでレジ袋はもらっていましたが、それらは多くはゴミ袋として活用していました。横浜市はかなり真面目にゴミの分別をおこなっている(pdf)こともあり、分別してゴミを出すためにそれなりの数の袋が必要になります。今回、レジ袋が有料化され、レジ袋をもらわないことによって、ゴミ袋が足りなくなり、それは別途買うことになりました。ということは、少なくとも私のケースで言えば、プラスチック袋の使用量はあまり変わっていないのです。また、特に日本においては、海洋プラスチックごみは比較的少ない(ましてやその中に占めるレジ袋はもっと少ない)とされており、問題がないという気はないのですが、レジ袋の有料化は海洋プラスチックごみ問題の解消にはほとんどつながらないというのが実態かと思います。要は、(意味がないとは言いませんが)直接的な効果としては限られる、だからこそ「本当に必要かを考える」「ライフスタイルを見直す」というふわっとした目的になっているのかと思います。

今回少し調べてみてなるほどな、と思ったのが、レジ袋の有料化は国際的な動きですが、その背景にあるのは、ゴミ問題というよりは、脱石油社会へのシフトがあるということ。「プラスチック容器やレジ袋といった石油由来の資源のみならず、発電目的での利用など、あらゆる分野において脱石油を進めるというのが国際社会の流れ」。レジ袋の有料化が全く意味がないとは言いません。ただ、国際社会の流れを踏まえると、レジ袋の有料化だけをやってもしょうがないんですよね。レジ袋の有料化を一つの手段として、本当に目指すことは何なのか、それがもっとしっかりと議論され、発信されるべきなのではないかと思います。

あれ、少し柔らかめの話のはずが、結局固い話に着地してしまいました。これも性格でしょうか(苦笑)。
posted by 岡本浩一郎 at 20:51 | TrackBack(0) | その他

2020年08月21日

短期的に取り組むべき領域での方向性(その2)

その2ということで、前回からの続きです。2023年10月にインボイスが義務化されることを単なる法令改正で終わらせるのではなく、業務のデジタル化によって大幅な効率化を実現する機会ととらえ、この時点までに多くの事業者が共通的に利用できる電子インボイス・システムを構築しなければなりません。

多くの事業者が共通的に利用できる電子インボイス・システムの構築のためには、まず電子インボイスの仕様の標準化が不可欠です。当然のことながら、標準仕様は、大企業から中小事業者まで、広く利用できるものでなければなりません。また、実際に標準仕様に基づき、電子インボイスが広く利用されるためには、標準仕様に対応した業務ソフトウェア、また、電子インボイスを送受信するための通信ネットワークが、大企業から中小事業者まで、それぞれのニーズにあわせ、またそれぞれの事業規模に見合ったコストで利用できるようにしなければなりません。繰り返しになりますが、標準化の実現に向けて、関係者間で電子インボイスの仕様検討・実証を行うために先月立ち上がったのが、電子インボイス推進協議会です。

これまで商取引のデジタル化という観点では受発注業務を中心としたEDIが主眼となっており、請求支払業務はその付随業務と位置付けられてきました。しかしこの機会を活かせば、むしろ電子インボイス・システムを先行させ、それを発展させることによって、中期的に、受発注業務まで含めた商取引全体のデジタル化を図ることもできるのではないかと考えています。

ただし、電子インボイスの仕組みが必要だ、標準化が必要だと言うのは簡単なことですが、実際にはそれほど簡単なことではありません。

電子インボイス・システム、さらには商取引全体のデジタル化を図る上では、これまでの取り組みの反省を活かさなければなりません。今回の提言の一貫した主張ですが、単なる紙の電子化ではなく、プロセス全体のデジタル化を目指すべきだと考えています。これまでの電子帳簿は基本的に、あくまでも原点に紙があり、その電子化を目指してきました。だからこそ、電子化された紙の真正性を担保するために、個々の電子化された紙にタイムスタンプを付与するという発想になっています。しかし、最初からデジタルデータであり、それが一貫してデジタルデータとして処理されるのであれば、例えば中間地点における処理ログでも真正性は担保できるはずです。

また、EDIが普及していないことに対する反省として、利用に向けた明確なインセンティブを設計しなければなりません。もちろん、デジタル化自体が業務効率化のようなメリットを生むのが本筋ですが、利用が一般化しない限りデジタルと紙の併用になってしまい、十分なメリットが生まれにくいこと、またメリットの多寡は事業規模に連動することから、特に中小事業者においては、外的なインセンティブが必要だと考えています。プロセス全体のデジタル化であり、社会的コストの低減という観点では、電子インボイスにより、より公平公正な納税が実現されるメリットを、事業者に対するインセンティブとして還元するという考え方もあるのではないでしょうか。
posted by 岡本浩一郎 at 19:45 | TrackBack(0) | デジタル化