2020年12月14日

EIPAからの提言

本日12/14に、電子インボイス推進協議会(EIPA)を代表し、SAP内田会長、OBC和田社長と私の3名で、平井卓也デジタル改革担当大臣を訪問し、EIPAからの提言を行いました。

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EIPAでは、7月末の設立以来、毎月1回のペースで日本における電子インボイスの標準仕様に関する検討会合を続けてきましたが、先週12/9に、Peppol(ペポル)と呼ばれる国際規格をベースとして、日本標準仕様を策定すべきであると結論付けました。

Peppolは、電子インボイスなどの電子文書をネットワーク上で授受するための国際的な標準規格です。当初は汎ヨーロッパでの公共調達の仕組みとしてスタートしましたが、近年ではシンガポールやオーストラリアなどでも官民を問わず電子インボイスの仕組みとして活用されるようになっています。

Peppolは国際的な規格であり、これを日本でも活用するとなると、国の関与は欠かせません。良くも悪くも、民間だけではPeppolには対応できません。そのため、民間団体(65社の正会員と特別会員3団体、7名)の総意としてPeppol採用すべきと提言した上で、国の積極的関与をお願いしました。

平井大臣はご承知のように、デジタル改革の担当大臣。日本のデジタル化の旗振り役であり、来年に設置されると言われているデジタル庁の推進役でもあります。今回、その平井大臣から日本における電子インボイス普及に向けて全面的な賛同をいただけました。今後発足するデジタル庁の「フラッグシッププロジェクト」になるとまで言っていただくことができました。

社会的システム・デジタル化研究会であり、電子インボイス推進協議会の活動には、私自身が今年かなり時間を割いてきました。今回、日本における電子インボイスの普及に向けて、民間が一つにまとまり、さらに今回国としての全面的な協力も得られたことは大きな成果だと思っています。ただ、これはあくまでも出発点。Peppolを日本で実現するまでにはまだまだ山谷が予想されますし、それ以上に本当に目指すのはPeppolを動かすことではなく、事業者の皆さんが実際に活用し、業務効率化を実現すること。正直、長い道のりだとは思います。ただ、普段は競争することもある民間が一つにまとまったこと、そして国としてもデジタル化を最重要課題の一つと位置付け自ら動こうとしていることを考えれば、今度こそ、本当の意味での業務のデジタル化を成し遂げられるのではないかと考えています。

次回以降、電子インボイスの普及で目指すこと、そしてPeppolとはどういった仕組みか、お話ししたいと思います。

それにしても、私もブログで旬な話題を発信するように心がけていますが、今日は平井大臣に負けました(笑)。さすがデジタル改革担当大臣です。
posted by 岡本浩一郎 at 18:41 | TrackBack(0) | デジタル化

2020年12月10日

データから見るGoToトラベル

前回ご紹介した「GoToトラベル」を利用している人は新型コロナウイルスへの感染リスクが高いとする東京大学などの研究チームによる調査結果ですが、政治の世界でもかなり話題になっているようです。ただ、相関関係なのか、因果関係なのか、で解釈がだいぶ分かれているようです。

津川先生ご自身が、「Go To トラベル事業の利用者は非利用者よりも新型コロナに感染するリスクが高いことを示して」いるという相関関係を認める一方で、「Go To トラベルの利用が直接的に新型コロナ症状の増加につながったという因果関係は断定できない」とも書かれているんですけどね。この種の話は、それぞれの人が自分が見たい真実を見出いがちということなのかと思います。見たい真実ではなく、本当の真実を見出すためには、データをしっかり見る必要があります。

今回の調査の一部のデータが論文中で記載されていますが、これはなかなか興味深いです。例えば、GoToトラベルへの参加者(N=3,289)では、大学卒以上が60.0%。これに対して非参加者(N=22,193)では、大学卒以上が48.3%。P値(統計的に有意な差があるかどうかを測る指標、小さいほど有意に差がある)が<0.001ですから、確実に差があります。収入が高位層に属する人が参加者は34.8%、非参加者が20.7%。経営者(Employer)である割合が参加者は34.8%に対し、非参加者が3.4%。

単純に言えば、やはり経済的に余裕のある人ほどGoToトラベルを活用しているという傾向があるということかと思います。これを政策として金持ち優遇と見るか、あるいは、補助という呼び水によってお金をどんどん使ってもらうのが目的だからむしろ狙い通りと見るか。

私は基本的に後者という理解です。ただ、金持ち優遇に見えることが心情的に許せないということも理解できます。もっとも健康状態に関するデータを見ると、また複雑な事情が見えてきます。この調査では基礎疾患の有無も調査しているのですが、これを見る限り、GoToトラベル参加者は羨ましいとは言えないように思います。

過体重に該当する方が、参加者26.9%、非参加者19.4%(P値0.04)。P値がやや大きくなっていくので、有意差という意味では少し弱くなっていきますが、高血圧が参加者32.6%、非参加者26.5%。糖尿病が参加者15.7%、非参加者9.9%。喘息が参加者19.7%、非参加者13.2%。心疾患が参加者12.2%、非参加者5.8%。

健康状態という観点でも差がありそうですよね。経済的に余裕があるのは、必ずしもいいことではないのかもしれません(苦笑)。まあ、これも疑似相関なのか、あるいは、相関があるとしてもどんな因果関係なのか、冷静に見極める必要がある訳ですが。
posted by 岡本浩一郎 at 23:42 | TrackBack(0) | その他

2020年12月08日

GoToトラベルと新型コロナウイルス

「GoToトラベル」を利用している人は新型コロナウイルスへの感染リスクが高いとする東京大学などの研究チームによる調査結果が話題になっています。新型コロナウイルスの検査陽性者数が増えているのはGoToトラベルの影響ではないか、とも言われている中で、ほらやっぱり、という受け止め方も多いようです。

ただ、注意しなければならないのは、「GoToトラベルを利用している人は新型コロナウイルスへの感染リスクが高い」ということと、「GoToトラベルが新型コロナウイルス感染拡大の要因になっている」ということはイコールではないということです。また、疑り深い私としては、そもそもこの調査の正当性も気になります。例えば、GoToトラベルを利用する人は高齢者が多い、と同時に、高齢者は感染リスクが高いという関係があると、GoToトラベルを利用する人は感染リスクが高いという必ずしも正しくない因果関係を導き出してしまう可能性があります。以前、「年収が高い人ほど歩くスピードが速い?」という突っ込みどころ満載のリリースを例にお話ししたことがありますが、疑似相関である可能性があるからです。

こういう時は原典にあたってみようということで、調べてみたところ、この調査は、宮脇敦士氏(東京大学大学院医学系研究科)、田淵貴大氏(大阪国際がんセンターがん対策センター疫学統計部)、遠又靖丈氏(神奈川県立保健福祉大学大学院保健福祉学研究科)、津川友介氏(カリフォルニア大学ロサンゼルス校[UCLA])によって構成される共同研究チームによるものだそうです。

津川先生のブログを読んでみると、さすがに「年収が高い人ほど歩くスピードが速い?」ほどの安直な分析ではありませんでした(査読が終わっていないとはいえ、アカデミックな論文なので、まあそれはそうですよね)。「性別・年齢・社会経済状態・健康状態などの影響を統計的に取り除いた」とありますので、母集団の偏りは排除したもののようです。津川先生のブログでは、「Go To トラベル事業の利用者は非利用者よりも新型コロナに感染するリスクが高いことを示して」いると同時に、「Go To トラベル事業が新型コロナ感染拡大に寄与している可能性があることを示唆しています」と記されています。感染拡大への寄与はあくまでも可能性ということです。実際、この研究の限界として、「Go To トラベルの利用が直接的に新型コロナ症状の増加につながったという因果関係は断定できない」とも明確に記載されています(その他の課題も明確に記載されています)。

個人的には、「GoToトラベルを利用している人は新型コロナウイルスへの感染リスクが高い」のは当たり前だと思います。家にこもっているよりは、外に出て活動する(特に旅行の場合、食事も基本的に外食とならざるを得ない)方が、感染リスクが高くなるのは当然のことではないでしょうか。逆に、「GoToトラベルが新型コロナウイルス感染拡大の要因になっている」については、主要因かどうかは言い切れないものの、一定の要因になっていることも当たり前と言えば当たり前だと思います。人々が家にこもった状態よりは、旅行する人が多い方が感染拡大はしやすい。

結局は程度問題なのかと思います。そもそもGoToトラベルであり、その他のGoToも含めて、感染リスクをゼロにすることは目指していないはずです。感染リスクをゼロにするのであれば、皆が家にこもるのが一番。でもそれでは日本経済が壊滅的な打撃を受けかねない。そうならないよう、感染リスクを極力下げながらも、人が行動し、経済を回す。ですからGoToが主要因として感染が爆発し、制御できない状態になることはもちろん許容できませんが、一定程度の感染につながることは本来織り込み済みではないでしょうか(なかなか公言しにくいことだとは思いますが)。

そういった意味で、今回の調査は、なかなか興味深い結果だと思います。今回の分析で意外とも言える結果は、「GoToトラベルの利用経験による有症率の違いは、65歳以上の高齢者よりも、65歳未満の非高齢者で顕著」だったということ。これには、「高齢者の方が新型コロナ感染を恐れているため、たとえ旅行をしても慎重に行動し、その結果として感染リスクを増加させていなかった」という仮説が提示されています。とすると、高齢者に自粛を要請するのは実は的外れなのかもしれません。津川先生もGoToトラベルがダメだと言っている訳ではありません。「感染者数の抑制のためには、対象者の設定や利用のルールなどについて検討することが期待されます」と。今回の調査にも色々と限界はありますが、定量的なデータを活用し、ゼロイチではなく、最適解を見出そうとすることが大事なのではないでしょうか。
posted by 岡本浩一郎 at 23:36 | TrackBack(0) | その他

2020年12月04日

新常態の運動会

少し前になりますが、小学校の運動会が開催され、お手伝いに行ってきました。あれ、娘は小学校を卒業したのでは、と思われた方、鋭い。はい、娘は卒業しましたが、父親の会には卒業がないという名言(迷言?)があり、お手伝いに行ってきました。

例年この小学校の運動会(スポーツフェスティバルという名称が今どきです)は5月開催ですが、今年に関しては新型コロナウイルス禍の影響を受け、見送りとなっていました。それから時間が経ちましたが、子どもたちのために何とか開催したいという先生方の熱意の結果、10月末に無事開催することができました。

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新型コロナウイルス禍の中での運動会開催ということで、開催方式は大幅に見直しになりました。学年ごとに競技をする時間を分け、まずはある学年がグラウンドに移動して競技、その次は別の学年と入れ替えを行い、その学年の競技という方式となりました。ある一時点でいうと、一学年とその保護者のみがグラウンドにいるという状況を作ったわけです。

そうすると、子どもたちは他の学年の競技を見ることができない。そこで父親の会の出番です。Zoomを使ってグラウンドから各教室への配信を実施しました。簡単そうに見えますが、公立小学校のITインフラにはまだまだ課題が多く、各教室には父親の会メンバーがボランティアで貸し出したPCを一台ずつ配置、ネットワークはモバイルWiFiルーターをレンタルすることになりました。途中でZoomが落ちるといったアクシデントもありましたが、父親たちが校内を駆けずり回って再接続、無事に最初から最後までの運動会のライブ配信を実現することができました。

当日は天気もよく、絶好の運動会日和。私自身は微力ながら、子どもたちの教室からグラウンドへの移動の見守りと、保護者の受付(1家庭1名のみ)のお手伝いをしました。Zoom配信は子どもたちに好評だったようですし、グラウンドは一学年とその保護者で占有することになった結果、保護者の方からも例年より見やすいとこれもまた好評だったようです。

工夫して何とか運動会を開催にこぎつけた先生方の熱意、そしてそれを子どもたちのために最高の運動会にするための努力を惜しまなかった父親たちの熱意には本当に頭が下がります。次は卒業式でライブ配信ができないか、検討が始まっているようです。私の娘の時には卒業式の様子を全く見ることができず悲しい思いをしたので、課題はあるとは思いますが、是非実現してほしいなと思います。新型コロナウイルス禍の収束が見通せない中で、学校のイベントも新常態に適合をしていく時代ですね。親としてできるだけの協力をしたいと思います。
posted by 岡本浩一郎 at 19:01 | TrackBack(0) | パーソナル

2020年12月02日

あっという間に12月

早いもので今年も12月になりました。うーん、今年は本当に時間が過ぎるのが速いように感じます。新型コロナウイルス禍というこれまでにない環境下もあるのでしょうが、焦りを感じないというと嘘になります。

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そういった中でも先日お話ししたようにデスクトップアプリケーションの新製品「弥生 21 シリーズ」は11/13から発売になっています。いつも新製品発売のタイミングで部屋の模様替えをするのですが、現状は皆がそれぞれのタイミングでリモートワーク中ということで、今年は模様替えはなしかなあ、と思っていたところ、いつの間にかしっかりと弥生 21 シリーズになっていました。いまだに誰が模様替えしてくれたのかわからずじまいですが、有難うございました。

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私の部屋のすぐ外に飾られている縁起物の熊手もいつの間にやらしっかりと弥生 21 シリーズ仕様に変わっていました。私は時間の経過に慌てふためいていますが、周りはしっかりとやるべきことをやってくれているようです。

12月といえば年末調整。これまで何回かにわけて今年の年末調整がヤバいということをお話ししてきました。一通り読んでいただいた方であれば、これはヤバいと実感いただいたのではないかと思います。もはや12月、時間の余裕はありません。できるだけ早めに年末調整の目処を付けていただきたいと切に願っています。

これも少し前にお話ししましたが、新型コロナウイルス禍が再び拡大傾向にある中で、弥生は対応レベルの引上げを行っています。まずは札幌がレベル3に移行しましたが、その後大阪、東京、そして名古屋と、新型コロナウイルス禍の拡大傾向と共に、対応レベル3とする拠点が増えています。ご承知の通り、弥生のカスタマーセンターは大阪と札幌にあります。対応レベル3ですと、時差出勤等は行っていますが、対応能力として大きくは落ちていません。しかしこれが対応レベル4となると、在宅での受電等を行ったとしても、対応能力はどうしても下がらざるを得ないと考えています。そうならないことを願ってはいますが、万が一そうなっても困らないように、年末調整の処理は早めに始めて早めに目処を付けていただきたいと思っています。

今年はあっという間の一年でしたし、12月はそれ以上にあっという間の一ヶ月になるのだと思います。それでもやるべきことはやった一年と言えるように、一日を大事にしていきたいと思います。
posted by 岡本浩一郎 at 21:43 | TrackBack(0) | 弥生

2020年11月30日

できなかったこと

今年の年末調整は変更点が多く、早めに準備しないとヤバい、ということで弥生自身も例年より圧倒的に早い時期から準備を進めてきました。年末調整と言えば、一般的に意識されるのはようやくこの時期なのですが、弥生は今年は7月末には「年末調整あんしんガイド」を公開し、事業者や会計事務所の皆さまが早めに準備できるように情報発信を行ってきました。もちろん今年の変更点に対応し、年末調整を進めていただくためのソフトウェアも弥生給与 21/やよいの給与計算 21として既に提供を開始しています。

ただ、残念ながら、今年できなかったこともあります。それは今年からスタートした年末調整手続の電子化に向けた取組みへの対応。今回の年末調整から、生命保険料控除、地震保険料控除及び住宅借入金等特別控除に係る控除証明書等について、勤務先へ電子データにより提供できるようになり、また、これを受けて、従業員がこれら電子データを取り込んで年末調整で必要な申告書を作成することのできる「年末調整控除申告書等作成用ソフトウェア」が国税庁から提供されました。

しかし残念ながら弥生はこれら(電子データによる控除証明書等および国税庁ソフトからのデータ取込)に対応していません。直接的な理由は、今更ながらではありますし、言い訳じみた部分もありますが、新型コロナウイルス禍です。春先からリモートワークが始まり、どのような生産性で成果を出せるかが見通せない中で、弥生として取り組むタスクの優先順位を見直さざるを得ませんでした。これまでお話ししてきたように、今年の年末調整はこれまでになく変更点が多い中で、まずはそういった法令面での変更にしっかりと対応し、なおかつ、お客さまに早め早めに対応いただけるようコンテンツ提供などをしっかりやることが最優先だと考えました。一方で、年末調整手続の電子化に向けた取組みについては、実際どこまで利用されうるかが判然としない中で、リソースを優先的に割くべきではないと判断しました。

実際問題として、保険料控除の控除証明書については対応する保険会社と対応しない保険会社がわかれました。私が個人的に契約している生命保険会社は1社が電子データに対応、もう1社は非対応、損害保険会社1社は非対応という状況でした。また、国税庁から提供された年末調整控除申告書等作成用ソフトウェアは公開が秋になったということもあり、認知が進んでおらず、弥生のお客さまで活用されるという事業者の方は少数にとどまる見込みです。正直これは難しいところで、弥生側が対応していない(結果的にこのソフトを利用してもその出力を手で弥生側に入力していただく必要がある)から、このソフトの利用が進まないという側面もあれば、逆に、このソフトの利用が進まないと、弥生としても対応することの合理性(特に今年のような難しい環境では)を見出すことが難しい。典型的な鶏と卵の問題です。

今後という意味では、年末調整手続の電子化に向けた取組みは広がっていくと思いますし、その中で弥生としても対応していく必要はあると考えています。ただ、どのタイミングでどう対応するのかは、年末調整控除申告書等作成用ソフトウェアの今期の利用状況(もちろん弥生ユーザー以外も含め)と、その評価も踏まえながらしっかりと考えたいと思います。本ブログはどうしても弥生としてやっていること、できたことのお話しに偏ってしまいますが、本件については、弥生としての課題であり、できていないこととしてしっかりお話しすべきだと考えました。

弥生として社会的システム・デジタル化研究会という組織を立ち上げ、デジタル化を推進しようという立場でありながら、足元で年末調整手続の電子化に向けた取組みに対応できていないのは正直お恥ずかしいところです。ただ悩ましいのは、今回の取組みは年末調整手続の電子化であって、デジタル化ではないということ。電子化した方が良いか、しない方が良いかと聞かれればもちろん電子化した方が良いとは思うのですが、一方でこれで従業員の申告書記入が圧倒的にラクになるか、あるいは事業者の年末調整業務が圧倒的に効率化できるかといえば、そうではないというのが正直なところです。時間はかかるかもしれませんが、やはりデジタルを前提として、制度の根本から見直すデジタル化が必要だと考えますし、弥生としては、そこまでしっかりと踏み込んでいきたいと思います。
posted by 岡本浩一郎 at 21:54 | TrackBack(0) | 弥生

2020年11月26日

ひとり親控除

今年の年末調整は変更点が多く、早めに準備しないとヤバい、ということで、少し前から、今年の年末調整について変更点を中心にお話ししています。初回は、昨年までの3種類の申告書で3枚の帳票から、今年は5種類の申告書で3枚の帳票に変わったとお話ししました。2回目は、「給与所得者の基礎控除申告書 兼 給与所得者の配偶者控除等申告書 兼 所得金額調整控除申告書」(基礎控除申告書等)という帳票ができた背景についてお話ししました。そして前回は、基礎控除申告書等については事実上年末調整を受ける全ての方の提出が必要になること、一方で、基礎控除は受けるが配偶者(特別)控除を受けない場合などに、処理に気をつける必要があるとお話ししました。

これまでに、基礎控除、給与所得控除が変わるということ、また、所得金額調整控除という控除が新設されたことをお話ししました。実は、今年の年末調整ではもう一つの控除が新設されています。それがひとり親控除です。これはもともと存在した寡婦(寡夫)控除が見直され、新たにひとり親控除と寡婦控除に再編されたものです。

寡婦控除、あるいは寡夫控除というのは耳慣れないかもしれません。これは、配偶者との死別又は離別等により、もう一方の者が生計を支えなければならないといった事情を踏まえて税制上の配慮を行うための控除です。男性が亡くなった場合には残された女性が寡婦控除を、逆に女性が亡くなった場合には残された男性が寡夫控除を受けられることになります。

寡婦(寡夫)控除であり、今回新設されたひとり親控除は時代を色濃く反映しています。やはり男性が家庭の大黒柱であり、その男性が亡くなった場合に残された女性に配慮が必要という発想で生まれたのが寡婦控除です。1951年のこと。時代的には戦争遺族に対する配慮という面も強かったのではないかと思います。

ただ、配偶者が亡くなって一人で子どもを育てなければならないという経済的な大変さは女性も男性も変わらないはず、ということで寡夫控除も認められるようになったのは1981年。実に30年のギャップがあります。それでもこれで男性と女性がイーブンになったかというと実はそうではありません。女性の場合、配偶者が亡くなった際に子どもがいてもいなくても寡婦控除を受けられます。これに対し、男性の場合、配偶者が亡くなった際に子どもがいなければ寡夫控除は受けられません。配偶者が亡くなった際に、女性は一人で生計を営むのは困難、逆に男性は一人で生計を営めて当然という発想が色濃く残っているわけです。

これまでの寡婦(寡夫)控除については、配偶者との死別あるいは離別した方が対象になっていました。しかし、これでカバーしきれないケースとしては非婚のひとり親があり、一人で子どもを育てなければならないという経済的な大変さは共通でありながら、婚姻状況によって差が出るのはおかしいとして特にここ数年見直しが強く求められていました。これを踏まえて新設されたのが今回のひとり親控除です。

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ひとり親控除は、性別(女性/男性)を問わず、また死別/離別/非婚を問わず、ひとりで子どもを育てている方(ただし、所得が500万円以下の方に限る)に等しく35万円の所得控除が認められるというものです。なお、上でお話ししたように、寡婦控除については、子どもがいなくても認められる部分がありましたので、その部分は独立して寡婦控除として残されました。

本ブログでは税制がどんどんと複雑化することをどちらかといえば否定的な見方でお話ししています。ただ、今回のひとり親控除のように時代の要請に応じて必要な見直しが行われていることも事実です。時代の要請にあわせ、ただ、同時にそれをかつての九龍城のような建て増しによる複雑化ではなく、極力シンプルな仕組みにしていく。それが制度を考案する行政であり、国民の理解を得る政治の仕事であると期待しています。

今回は年末調整という枠組みの中でお話ししていますが、ひとり親控除は年末調整の対象とならない個人事業主の方ももちろん対象となりますので、ご安心ください。年末調整の対象とならない場合には、確定申告においてひとり親控除を適用することになります。

なかなか難しいなと思うのは、年末調整の対象になったとしても、年末調整でこれまでの寡婦(寡夫)控除や、今回のひとり親控除の適用をあえて受けない方が一定数いらっしゃるということ。年末調整で適用を受けるためには、寡婦/寡夫である、ひとり親であるということを申告書を通じて会社に伝える必要があります。これを避けるために、年末調整では寡婦/寡夫である、ひとり親であるということをあえて申告しない方が一定数いるのだそうです。この場合は、ご自身で翌年2月〜3月にかけて確定申告をすることによって、控除を受けることができます。制度をシンプルにというのは簡単ですが、現実には配慮を必要とするなかなか難しい問題もあるのだな、と実感します。
posted by 岡本浩一郎 at 19:40 | TrackBack(0) | 税金・法令

2020年11月24日

提出が必要

今年の年末調整は変更点が多く、早めに準備しないとヤバい、ということで、前々回から、今年の年末調整について変更点を中心にお話ししています。前々回は、昨年までの3種類の申告書で3枚の帳票から、今年は5種類の申告書で3枚の帳票に変わったとお話ししました。前回は、「給与所得者の基礎控除申告書 兼 給与所得者の配偶者控除等申告書 兼 所得金額調整控除申告書」(基礎控除申告書等)という帳票ができた背景についてお話ししました。

復習になりますが、昨年までは、1) 給与所得者の扶養控除等(異動)申告書、2) 給与所得者の配偶者控除等申告書、3) 給与所得者の保険料控除申告書という3つの帳票が存在していましたが、このうち、必ず提出が必要なのは1)のマルフだけでした(厳密に言えば、マルフは、その年の最初に給与の支払を受ける日の前日までに提出するものとされており、それを年末調整時点で異動がないかを確認するという手続きとなっています)。これに対し、2)のマルハイと3)のマルホは年末調整において該当の控除を受けようとする場合にのみ提出が必要となっていました。ですから、例えば、配偶者はいるけれども、配偶者にもそれなりな所得があり、配偶者控除/配偶者特別控除の対象にならないということがわかっている場合には、マルハイを出す必要はありませんでした。

これに対して今年は、1) 給与所得者の扶養控除等(異動)申告書、2) 給与所得者の基礎控除申告書 兼 給与所得者の配偶者控除等申告書 兼 所得金額調整控除申告書、3) 給与所得者の保険料控除申告書という3つの帳票となったのはこれまでお話しした通りです。そして今年に関しても、1)は必ず提出が必要なのに対し、2)と3)は該当の控除を受けようとする場合にのみ提出が必要ということは形式的には変わっていません。しかし実際には、1)と2)が必須と考えるべきです。というのは、2)を提出しないと、基礎控除を受けられなくなってしまうからです。これまでは基礎控除には一切の条件がなく、誰にでも控除が認められていましたから、基礎控除を受けるために申告書を出す必要がありませんでした。ただ、前回お話ししたように、今年から所得が一定以上になると基礎控除が減額となり、最終的には基礎控除がなくなるという制度になったため、申告が必要になりました。理論的には基礎控除がなくなる所得金額が2,500万円以上の人は基礎控除が受けられないわけですから、この申告書は提出不要です。ただ、給与等の金額が2,000万円を超える方については、そもそも年末調整の対象にはなりませんから、年末調整は受けるけど、基礎控除の対象外という方は基本的には存在しません。つまり、年末調整を受ける方にとっては、2)のマルキハイショも必ず提出が必要ということになります。

ここで注意が必要なのは、昨年までマルハイを出していなかったという方。上でお話しした通り、配偶者にもそれなりな所得があり、配偶者控除/配偶者特別控除の対象にならないということがわかっている場合には、昨年まではマルハイを出す必要はありませんでした。ただ、今年は、マルキハイショとして必ず提出が必要になります。この際、基礎控除を受けるけれども、配偶者控除/配偶者特別控除は受けないという場合には、2) マルキハイショのうち、基礎控除申告書部分のみを記入し、配偶者控除等申告書部分については記入する必要はありません。

ここでやっかいなのは、事業者側が従業員から基礎控除申告書部分のみ記入され、配偶者控除等申告書部分については記入がない2) マルキハイショを受け取った場合。この場合、「配偶者控除等申告書部分については記入がない」ことを「申告書上の配偶者の所得額を0円」として処理してしまうと、誤った控除額になります。配偶者控除等申告書部分については記入がないというのは、配偶者控除/配偶者特別控除が0円を意味するわけですが、誤って申告書上の配偶者の所得額を0円として処理してしまうと、結果的に(本人の所得次第ではありますが)、配偶者控除が満額計上されてしまうからです。

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この点、今回の弥生給与 21でどのように入力していただくか仕様を固める上でかなり悩んだポイントなのですが、誤解を避けるために、明示的に該当に従業員ごとに、「配偶者(特別)控除を受けない」という項目にチェックしていただくようになっています。この点お間違えの無いようご注意ください。
posted by 岡本浩一郎 at 21:35 | TrackBack(0) | 税金・法令

2020年11月19日

基・配・所

今年の年末調整は変更点が多く、早めに準備しないとヤバい、ということで、前回から、今年の年末調整について変更点を中心にお話ししています。前回は、昨年までの3種類の申告書で3枚の帳票から、今年は5種類(!)の申告書で3枚の帳票に変わったとお話ししました。今回、新設された2つを含む3つの申告書が合体して生まれたのが、「給与所得者の基礎控除申告書 兼 給与所得者の配偶者控除等申告書 兼 所得金額調整控除申告書」(pdf)です。この帳票は、「年末調整のしかた」では、「基礎控除申告書等」と表記されていますが、例えば扶養控除等(異動)申告書は帳票の右上に記されたマークから「マルフ」、配偶者控除等申告書は「マルハイ」と呼ばれていますので、今回は、「マルキ」もしくは「マルキハイショ」と呼ばれるのでしょうか。

数年前に配偶者控除等申告書ができましたが、これは配偶者控除の見直しによって生まれました。同様に、今回の給与所得者の基礎控除申告書と所得金額調整控除申告書は、基礎控除が見直しとなり、また、所得金額調整控除という新たな控除ができたことにより生まれました。

基礎控除が見直しになったなんて聞いていないよ、と思われるかもしれませんが、実は約3年前に本ブログで基礎控除の見直しと所得金額調整控除についてお話ししています。ブログでお話しした時点では与党の税制改正大綱に記された段階でしたが、その後の国会で可決されました。それがついに今回の年末調整に反映された訳です。

基礎控除の見直しは、端的に言えば、基礎控除が38万円から48万円になるというものです。控除が増える = 所得額が減る = 税額が減る、ですから、いいじゃないか、と思われるかもしれませんが、実際には給与所得控除が逆に10万円減額されるため、ほとんどの給与所得者にとっては「行って来い」となり、所得額であり、税額への影響はありません。ただし、所得が一定以上になると基礎控除が減額となり、最終的には基礎控除がなくなるというのが、対象人数は限られるものの、今回の見直しの実質的なポイントです。詳細は年末調整あんしんガイドをご参照いただければと思いますが、所得金額が2,400万円を超える人は基礎控除が減額、2,500万円を超える人はゼロとなります。

基礎控除が10万円増える見合いとして給与所得控除が10万円減るとお話ししましたが、同時に、給与所得控除の上限額も見直しとなります。昨年までは、給与収入が1,000万円超で給与所得控除が220万円の上限に達することになっていましたが、今年から、給与収入が850万円で給与所得控除が195万円の上限に達することとなりました。つまり給与収入が850万円以上の方は控除額が15万円(+全体での10万円で合計25万円)減ることになりました。一方で、上でお話しした税制改正大綱では「子育てや介護に対して配慮する観点から」子育て世帯や介護世帯は「負担増が生じないよう措置を講ずる」とされていたことから、給与収入が850万円以上の子育て世帯や介護世帯において負担増とならないようにするために生まれたのが所得金額調整控除です。所得金額調整控除の詳細も年末調整あんしんガイドをご参照いただきたいのですが、正直、かなり複雑な制度で、これをパッと理解できる人はあまりいないのではないかと思います。趣旨としては、今回の給与所得控除の上限額の見直しを、給与収入が850万円以上の子育て世帯や介護世帯について打ち消すための調整ということです。

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基礎控除、配偶者控除/配偶者特別控除、そして今回新設された所得金額調整控除。共通項は、本人の所得金額によって控除の有無および額が変わるということです。このため、今回これらの控除の申告が1枚の帳票、「給与所得者の基礎控除申告書 兼 給与所得者の配偶者控除等申告書 兼 所得金額調整控除申告書」にまとめられています。

今回お話しした内容については、詳細を年末調整あんしんガイドで解説しています。是非ご覧いただき、年末調整の処理を進めていただければと思います。

PS. どうでもいいことですが、基・配・所って、なんとなく、守・破・離みたいですね。まずは基本、そして気配りができるようになり、最後は置かれた所で咲きなさい、的な(笑)。
posted by 岡本浩一郎 at 20:48 | TrackBack(0) | 税金・法令

2020年11月17日

大きく変わった今年の年末調整

先週金曜日に弥生 21 シリーズが発売となりました。例年、新製品の発売後間もなくやってくるのが、年末調整シーズン。弥生のカスタマーセンターへのお問合せが目立って増えるのは12月に入ってからですが、本当は11月にはある程度目処をつけておきたいところです。特に今年は少し前にお話しした通り、ヤバいです。それだけ今年の年末調整は大きく変わっています。

年末調整では、従業員に何種類かの申告書を提出してもらい、その申告書に基づいて会社側で年末調整の計算をすることになります。少し前までは、基本となる申告書は3種類、ただし、これが2枚の帳票にまとめられていました。具体的には、1) 給与所得者の扶養控除等(異動)申告書と2) 給与所得者の保険料控除申告書 兼 給与所得者の配偶者特別控除申告書の2つです。

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これが平成30年分(2018年分)から、3種類の申告書で3枚の帳票に変わりました。1) 給与所得者の扶養控除等(異動)申告書、2) 給与所得者の配偶者控除等申告書、3) 給与所得者の保険料控除申告書です。本ブログで以前お話ししたことがありますが、2018年に配偶者控除が見直され、本人の所得に左右されることになったことから、それまでは、 保険料控除申告書と一体化していた配偶者特別控除申告書が分離され、新たに配偶者控除と配偶者特別控除に関する申告のための、給与所得者の配偶者控除等申告書(配偶者控除と配偶者特別控除の両方の申告を行うため、配偶者控除「等」申告書という名称になっています)として独立したためです。

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そして今年、令和2年分(2020年分)から、5種類(!)の申告書で3枚の帳票と変わりました。今回追加されたのは、「給与所得者の基礎控除申告書」と「所得金額調整控除申告書」という二つの申告書です。帳票としては、上記1)の給与所得者の扶養控除等(異動)申告書と3)の給与所得者の保険料控除申告書は基本的に変わらないのですが、2)の給与所得者の配偶者控除等申告書に今回追加になった二つの申告書が合体され、「給与所得者の基礎控除申告書 兼 給与所得者の配偶者控除等申告書 兼 所得金額調整控除申告書」というとにかく長い名前の帳票が生まれました。

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2018年の配偶者控除等申告書は配偶者控除の見直しによって生まれた訳ですが、今回の給与所得者の基礎控除申告書と所得金額調整控除申告書はなぜ生まれたのでしょうか。これは名前からある程度想像できると思いますが、基礎控除が見直されたため、そして所得金額調整控除という新たな控除ができたためです。

次回は基礎控除と所得金額調整控除についてお話しをしたいと思います。本ブログでは少し時間をかけて背景を含めお話ししたいと思いますが、一方でまだ年末調整に未着手という場合には、できるだけ早く着手することをお勧めします。今年の年末調整の変更点、そして何をすべきかについては、弥生の年末調整あんしんガイドで詳細に解説していますので、是非ご覧いただければ幸いです。
posted by 岡本浩一郎 at 22:17 | TrackBack(0) | 税金・法令